![「宿」というより、もうひとつの帰る「家」のように。[日貫一日/島根県邑智郡邑南町] by ONESTORY](https://image.co-trip.jp/content/14renewal_images_l/486902/main_image_20200923195114700.jpg)
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2020.10.02
「宿」というより、もうひとつの帰る「家」のように。[日貫一日/島根県邑智郡邑南町] by ONESTORY
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から島根県邑智郡邑南町の「日貫一日」を紹介します。 Photo by OTA TAKUMI
山あいの村に誕生した、別荘のような宿

宿泊棟「安田邸」の面積は約100平方メートル、赤い瓦屋根の木造平屋
中国地方の山深い島根県邑南(おおなん)町に、「日貫(ひぬい)」という美しい響きの名前の地域があります。ここに2019年6月、古民家をリノベーションした一棟貸しの宿が誕生しました。それは、地元の食材で料理を楽しみ、地域の人との交流や地元の文化を体験できる『日貫一日』。その名には、「朝から晩まで、日貫で一日をゆっくり過ごしてほしい」との想いが込められています。
空き家を活用し、地域と来訪者をつなぐためのプロジェクトがスタート

かつての日貫村が石見(いわみ)町に合併し、更に羽須美(はすみ)村・瑞穂(みずほ)町・石見町が合併して邑南町となった
まず日貫という場所について紹介しましょう。日貫は、まさしく日本の原風景と呼べる手つかずの自然が残る、赤い瓦屋根の家々がひっそりと点在する里山地帯です。しかしこの地も、日本の多くの農村に共通する高齢化と人口減に悩まされていました。そこで2016年、あるプロジェクトがスタートしました。

太陽が移ろうのを感じたり、外を散策したり、自然を眺めたりして、日貫の特別な一日を味わうことができる
それが、日貫地区に暮らす地域住民が発足させた一般社団法人弥禮(みらい)による「日貫一日プロジェクト」。代表理事の德田秀嗣氏は日貫地区の存続の危機を感じるとともに空き家の有効活用の必要性を意識し、この地に人を呼ぶ「場づくり」が必要だと考えました。

どの季節に訪れても美しい日貫の里。周囲には棚田やダムもある
また、日貫地区には国の重要無形民俗文化財である「大元神楽」が伝承されており、神楽を見てほしいという想いから「暮らすように日貫を感じられる宿」の開業を構想。単に人を呼ぶだけではなく、この宿を中心に地域と関係を深く持ち、日貫地区に関わる人口を増やしていきたいという願いが込められています。
有名建築家の実家を、精鋭クリエイターたちがリノベーション

浴室は檜風呂。木の香りに癒されながら、ゆっくり足を伸ばせる
舞台に選んだのは、邑南町出身の有名建築家で、島根県庁や大分県庁を設計した故・安田臣(かたし)氏の実家。昔ながらの日本建築で、築90年の木造平屋です。建物は錚々(そうそう)たるクリエイティブチームによってリノベーションが進められました。

宿泊は最大6名まで。セミダブル、クイーンベッド、布団などを用意
ディレクションは大阪を拠点に文化や福祉、地域に関わるプロジェクトを手がける「UMA / design farm」。設計は分野にとらわれない人々や組織が集まる建築家ユニット「dot architects」、庭園をシェアオフィスとして活用する「松楓園プロジェクト」を立ち上げた「アトリエ 縁」の清水 徹氏。またレセプション棟である古い工場跡地の別棟の設計はデザイナーの加藤正基氏が担当。他にも、家具、檜風呂、ファブリック、照明、庭、香り……とそれぞれのプロダクトをデザイナーや作家らが作り上げました。
「作る」過程もまた楽しい、地元のお母さんの知恵が詰まった郷土料理

朝食は日替わりで、地元のお母さんたちが交代で用意してくれる
また、宿の大きな特徴は「食」です。邑南町周辺は農業が盛んで、新鮮な野菜がたくさん採れ、石見ポークや石見和牛でも有名。料理は、京都の料亭「草喰なかひがし」で父から料理を学び、現在はカリナリーディレクターとして飲食文化を海外に発信する中東篤志氏がレシピを開発しました。

「へか」は、ハレの日に食べられていたすき焼きで日貫の伝統料理。農具の「へか」で肉を焼いて食べたことが始まりといわれる
採れた新鮮な野菜と石見ポークを組み合わせたオリジナルのレシピは、地域のお母さんから話を聞いて郷土料理をアレンジした「へか ‒ 日貫伝統 すき焼き ‒」や、「野菜たっぷり石見ポークの鉄板焼き」、「石見ポークのスペアリブ」の3種類を用意。土間で料理を楽しみ、ウッドデッキでBBQをするなど、食べるまでの過程やロケーションもまるごと体験し、味わうことができます。
ただ泊まるだけのホテルでは味わえない、伝統芸能や工芸体験も

神楽面の絵付け体験。和紙で製作された神楽面に、自分の好きなように表情を描いて持ち帰ることができる
食体験の他にも、大田(おおだ)市の温泉津やきもの館から講師が出張する陶芸体験、満天の星を眺める星空体験、石見神楽の面の絵付け体験などを用意。

演目は「八咫(やた)」。大元神楽では、自然への敬意と豊作への願いを込めて藁でできた蛇(大元神)に神楽を奉納する
また、神楽体験プランでは、すぐ近くにある大原神社で、奉納神楽以外ではめったに見ることができない大元神楽をゲストのためだけに披露します。どれも日貫でしか味わえない、地元の伝統と文化を五感で体感できるプランです。
宿を拠点に、「邑南町」に深入りしてみるのも面白い

星空を眺めながら、島根の地酒を楽しみつつ、檜風呂に浸かる贅沢な夜を
日貫のある邑南町は、他でも地域の人々やUターン組、Iターン組による地元活性化の動きが盛んです。「A級グルメ」と称した邑南町ならではのメニューや食体験、シェフを養成する「食ラボラトリー」の設立など、産学官民が連携した持続可能な地域づくり・人づくりが行われています。町内には、この数年で約20軒のレストランやカフェがオープンしているそうです。 『日貫一日』を拠点に、邑南町の様々な食・農・人との触れ合いを楽しむ旅はいかがでしょうか。
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写真提供:日貫一日
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