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2025.08.05
倉敷美観地区でアート鑑賞♪世界的名画の宝庫「大原美術館」へ
岡山県・倉敷美観地区のシンボルともいえる「大原美術館」。1930(昭和5)年に日本初の西洋絵画中心の私設美術館として誕生しました。モネやエル・グレコといった世界的名画をはじめ、草間彌生ら人気の現代アート作品、民藝や東アジアの古美術など、幅広いジャンルの作品が見られます。アートな建物意匠にも注目です。
テーマごとに4館からなるコンテンポラリーな総合美術館

異なる時代の建物が混在する倉敷美観地区で、ひときわ存在感を放つ大原美術館
「大原美術館」を創設したのは、倉敷を代表する実業家・大原孫三郎(おおはらまごさぶろう)。多彩な事業を展開するとともに、地元倉敷の発展にも努め、文化事業にも積極的に取り組んだ人物です。本館建物の設計を手がけたのは、建築家・薬師寺主計(やくしじかずえ)。当時の建築技術の最高峰といわれる鉄骨鉄筋コンクリート造を採用し、古代ギリシャ・ローマ神殿風のファサードが、倉敷の町並みにクラシカルな雰囲気を添えています。
コレクションの中枢をなすのは19~20世紀にかけての西洋美術です。孫三郎の友人であり、郷土の画家・児島虎次郎(こじまとらじろう)の審美眼によって収集された作品を礎として、約3000件の収蔵数を誇ります。

(左上)本館2階展示室奥にあるクラシカルな丸窓 (右上)1991(平成3)年に増築された本館新展示棟 (左下)江戸時代の米蔵を改装した工芸館 (右下)分館前庭に展示されているロダンやイサム・ノグチなど近現代彫刻家の作品は、分館休館中も鑑賞可能
常にその時代の現代アートをコレクションしてきた大原美術館。始まりは印象派を中心とする西洋美術中心の「本館」のみでしたが、時代を重ねるごとにコレクションが増え、日本の近・現代アートを展示するために「分館(現在長期休館中)」を増設。その後、民藝運動を支えた作家の作品や東洋の古美術を展示する「工芸・東洋館」、虎次郎の作品を展示する「児島虎次郎記念館(2025年4月にグランドオープン)」と拡張を続け、今では総合美術館として唯一無二の存在感を放っています。
奇跡のコレクションがひしめきあう「本館」へ

分館休館中の現在は、岸田劉生をはじめとする日本の近代美術や、草間彌生や横尾忠則など現代アートの一部作品も、本館で見ることができる(現在の展示とは異なります)
まずはこちらの美術館を象徴する作品を見に「本館」へ。ルノアールやドガなど印象派の作品を中心に、エキゾチックな色使いが魅力的なゴーギャンや、新時代の潮流を築いたピカソやマティスなど、そうそうたる顔ぶれの作品が並びます。

エル・グレコ『受胎告知』(1590年頃~1603年)
美術館を代表する名画が、エル・グレコの『受胎告知』です。日本に2点しかないエル・グレコ作品のひとつで、日本で見られるのが奇跡とも言える名作。大天使ガブリエルが聖母マリアにキリストを身ごもったことを伝える瞬間が描かれています。同時代を生きる画家の美術品をコレクション対象としていた虎次郎が、唯一収集したオールド・マスターです。

(上)クロード・モネ『睡蓮』(1906年頃) (下)スイレンの見頃は5~10月頃
名画ぞろいの近代西洋美術作品のなかでも特に注目したいのが、印象派を代表する画家・モネが終生何度も描き続けた『睡蓮』。虎次郎がモネのアトリエを訪ね、連作の中から選んだ一枚です。モネが愛した自宅庭園の池に咲くスイレンは、2000年にここ大原美術館に株分けされました。工芸館横の池で毎年花を咲かせ、来館者を楽しませてくれます。
建物までもがアートな「工芸・東洋館」で、民藝と東洋の古美術を味わう

白壁の中に赤く塗られた芹沢銈介室の蔵がアクセントになっている
大原美術館の中庭をぐるりと囲むように建つのは「工芸・東洋館」です。大原孫三郎が多額の支援をするなど、日用品に美を見出した民藝運動のよき理解者として知られる大原家。工芸館では、そのキーパーソンとして活躍した棟方志功(むなかたしこう)の木版画に加え、濱田庄司(はまだしょうじ)やバーナード・リーチ、富本憲吉(とみもとけんきち)、河井寛次郎(かわいかんじろう)の陶芸、芹沢銈介(せりざわけいすけ)の染色を部屋ごとに展示しています。

(左上)エスカレーターからインスピレーションを得てデザインされた階段の手すり (左下)落花生のような形がかわいい縦格子の窓 (右)工芸館と東洋館の境では倉敷ガラスの匠・小谷真三さんのステンドグラスが空間を彩る
注目すべきは、展示作品だけではありません。「工芸・東洋館」の内外装を手がけたのは染色工芸家・芹沢銈介。江戸時代の米蔵の趣を生かしつつ、部屋ごとに趣向を凝らしたデザインも見応えがあります。例えば床は部屋ごとに素材や敷き方を変え、さらに踏むと音が鳴る仕掛けを施すなど、視覚だけでなく聴覚でも楽しめる演出がなされています。このほかにも壁や明かり取りの窓など、建物のあらゆるところに、芹沢のこだわりを感じることができます。

石仏室の扉に用いているのは、工事現場で使用される金属製の足場板
東洋館には、児島虎次郎が収集した東洋の古代美術を中心とした展示品が並びます。シルクロードに日本の工芸や美術のルーツがあると考えた虎次郎。重要文化財にも指定されている中国の北魏時代に制作された『一光三尊仏像』など、1500年以上昔の、貴重な品々を見ることができます。
「児島虎次郎記念館」が2025年4月3日にグランドオープン

大原美術館本館から北東約80mの場所に立地
2025年春に、およそ4年半の歳月をかけて整備を進めてきた「児島虎次郎記念館」が新たな地でリニューアル。虎次郎の誕生日にあたる4月3日にオープンしました。ステンドグラスが美しいネオ・ルネサンス様式の建物は、大原美術館本館を手がけた薬師寺が設計し、1922(大正11)年に建てられた元銀行。当時の窓口カウンターを残した吹き抜けの部屋を含め、3つの展示室へと改修されました。

児島虎次郎『和服を着たベルギーの少女』(1911年)
児島虎次郎を顕彰した記念館には、虎次郎自身の作品と、彼が西洋文化の源泉として収集した古代エジプト・西アジアなどの美術コレクションを主体として、54件の作品が並びます。東洋と西洋の美の融合が見て取れる『和服を着たベルギーの少女』は、虎次郎が最初に留学した際に手がけた作品。その9年後に描かれた『朝顔』の連作は、印象派の影響を感じるやわらかい光に満ちた作品で、3度の渡欧を重ねた虎次郎の作風の変遷も感じることができますよ。

児島虎次郎『朝顔』(1920年)。2m近い高さのある大作
大原美術館の向かいには、大原家の旧別荘・有隣荘が建ちます。普段は非公開ですが、特別公開を兼ねた展覧会が開催されることも。クラシカルなムード漂う倉敷美観地区で、アートな散策を楽しんでくださいね。
大原美術館
オオハラビジュツカン
https://www.ohara.or.jp/
入館料2000円 ※展示内容は変更の可能性あり
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