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2017.07.16
日常に溶け込む、カジュアルな着物。90年続く織元「逸見織物」をたずねて
東京から1時間半でいける秩父は、いまじわじわと注目を集める「秩父銘仙」が生まれた場所。前回は、秩父銘仙の色彩や模様を活かしてリメイクしたアイテムに出会える、森の中のちいさな雑貨店をご紹介しました。今回は、実際の制作現場から銘仙にまつわる“モノ語り”をお届けします。
多彩な色彩と模様に魅せられる、モダンなおしゃれ着物
大正から昭和初期に普段着、おしゃれ着として大流行した絹織物「秩父銘仙」。秩父は足利・桐生に並ぶ5大生産地に数えられ、かつては養蚕と織物業が秩父の産業を支えていました。時代とともに携わる人の数は少なくなりましたが、伝統工芸として大切に受け継がれているだけでなく、いまも形を変えて女性たちを魅了し続けています。
実際の制作現場を見せていただきました
工房を見学、体験したい場合は事前予約が必要
伺ったのは、90年以上の歴史をもつ老舗の織元「逸見織物(へんみおりもの)」。伝統の技をいまも引き継ぐ数少ない織元のひとつです。 工場に足を踏み入れると、カシャンカシャンとリズミカルで愉快な音とともに、自動織機(しょっき)が布を織りあげています。 逸見織物の三代目・逸見恭子さんをはじめとする4名の職人さんが迎えてくれました。
この道70年になる倉林さん。鮮やかな手つきで反物を織りあげていく
—織る前の糸に模様をつけるんですか?
恭子さん:糸を染めてから織るから「先染め・後織り」っていうの。後染めだと生地に裏表ができるけど、先染めの銘仙は裏表がないんですよ。
—えーと…あ、そうか。糸自体に色をつけるから裏も表も同じように染められるんですね。
銘仙は大正時代のファストファッションだった?
逸見織物の三代目・逸見恭子さん
難しい用語や技法に戸惑う私でしたが、三代目の恭子さんが語る銘仙の物語は、とても自然にすとん、と腹の中に入ってきました。
—そうですね。あとはお正月とか、ハレの日に。
恭子さん:着物にはランクがあるんだけど、銘仙はそういう場には着ていけないんです。ファストファッション感覚の、カジュアルな着物。いまで言うところのユニクロね。だから、洋服がまだ入って来る前の、ポリや化繊がなくて絹しかなかった時代に、手ごろで一世を風靡したんです。
(手前右から逆時計周りに)倉林さん、二代目・逸見敏さん、敏さんの弟の和夫さん、ことりっぷWeb・鈴木、ちちぶる・浅見さん、逸見恭子さん
恭子さん:両面表だから汚れたり褪せたりしたら、ひっくり返して自分で仕立て直して…当時はそれくらい物を大事にしたんですって。着物として着れなくなったら、自分の子供の「ねんねこ」や綿入れ半纏にしたりと、色々なものに作り替えていったんですね。
—着物として短く付き合うというよりも、絹・布として長く楽しむという感じなんですね。
日常に溶け込むことで、もう一度広まっていく
恭子さん:出張所では、反物というよりも小物や雑貨がメインですね。高級な着物もあるけど、手ごろな入り口としてこういうのもなきゃなって。実際に手織り機の体験をやりたいって方はこの工場にいらっしゃるかな。コースターとかランチョンマットを織ったり…。
—機織り体験ができるんですね!コースターなら私にも作れそう。
恭子さん:いま工場の織機にかかっている桜柄の銘仙の反物、あれね、実は近所でお店をやってる機織りの生徒さんが織ってるものなの。どうしても自分の手で着物を織りたいって言って、自分で織機を買って。でも自分の家でやったんじゃ教えられないでしょ?だから、工場に織機をもちこんでもらって。
恭子さん:一反(12.5メートル)を織るのに、この数カ月でまだ2メートルくらい。別に売るわけじゃなくて自分で着るだけだから、織の目なんてどうでもいいんだけどね。それが自慢なんだって。
今まで趣味がなかったんだけど、「今織物を習ってて秩父銘仙を織ってるの」って言ったら、みんなが「えー!」って驚くのがうれしいって。「お客さんに見せるから織ってる風景を写真に撮って」なんて私たちが言われたりして(笑)
「完成したら、俺買うよ!」なんて、お客さんもいるんですって。
恭子さん:でも、私、こういうのも大事だなーっと思ったの。そういう全く縁がないところでも、自分で作ったものをコースターとかのれんに掛けたりすると、男のお客さんだったり、銘仙なんて全然知らなかった人の目に触れて、広まっていくのかなって。
—日常の中に溶け込むと目にする機会が多くなりますよね。
恭子さん:昔は本当にそれが日常で。もう今ではどんどん減ってしまったけど、昔は、秩父では家の中のだれか一人は銘仙のなんかの仕事についてるって時代があったんですもん。何百軒もあって…農業やりながらお蚕やったり、捺染だったり、織だったり…。
—冠婚葬祭じゃなくて、普段着のおしゃれをする。きっと当時はそれが新鮮だったんですね。だからこそ流行したんでしょうね。
大正から昭和初期にかけて、一世を風靡した銘仙。様々にカタチを変えて日常に溶け込み、再び広がっていこうとしています。暮らしの中に取り入れやすい、無理しない普段着のおしゃれという心地よさが銘仙の魅力のひとつなのかもしれません。
暮らしの中にひとつ、旅先で見つけた銘仙アイテムをとりいれてみるのはいかがですか?
逸見織物 出張所(秩父ふるさと館内)
ヘンミオリモノ シュッチョウジョ
秩父美人屋台(西武秩父駅前温泉 祭の湯内)
チチブビジンヤタイ
***** 次回の「秩父銘仙さんぽ」は、絹織物の取引がさかんだった頃のレトロな面影が残る町中のカフェをご紹介します。 お楽しみに!
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鈴木 愛美 写真:青柳 喬
特別協力:ちちぶる
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