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2020.05.26
陶芸の色彩を楽しむ、まんまるフォルムの動物たち/やきもの作家・柴田菜月さん
思わず手に取りたくなる、ぽってりとしたフォルムでこちらを見つめる動物たち。 優しい配色で彩られた柴田菜月さんの陶芸作品は、出会う人の心を癒して笑顔を呼ぶ、 ほのぼのとした雰囲気が魅力です。 かわいらしい動物の焼きものが生まれてくるまでのストーリーを伺いました。
プロフィール
柴田菜月(しばたなつき)/東京都出身。女子美術大学工芸科陶芸コース、東京藝術大学大学院美術教育専攻を卒業。陶芸教室の講師、女子美術大学・専任助手を経て『滋賀県立陶芸の森』研修生に。その後ベルギー留学を経験。現在は創作活動を行いながら、高校の美術教師も務める。
【インスタグラムで情報配信中】@natsuki.shibata
デザイナーの母に憧れて、絵を描く楽しさを知った

作品のイメージイラスト。大らかに描かれた筆致が笑顔を誘う
柴田菜月さんが美術に関心を抱いたきっかけは、商業デザイナーだった母。仕事部屋で商品のパッケージなどに用いられるイラストを描く姿に憧れ、幼い頃から絵を描くことが大好きだったのだそう。小学1年生のときには、絵画教室にも通い始めました。 「当時住んでいた川崎から下北沢までひとりで電車に乗って、教室で黙々と絵を描いて帰ってくるんです。その頃はすごく人見知りだったことを振り返ると、恐らく教室で絵を描く時間がとても楽しかったから続いたんでしょうね」
美術に夢中だった少女が陶芸の面白さに出会うまで

「気づけばすっかり陶芸の面白さに夢中になっていました」と話す柴田さん
絵を描くことが好きな自分に正直に、中学から一貫して美術を専攻。大学時代は車や照明などを作るプロダクトデザイナーに憧れていた柴田さんは、陶芸コースを選択しました。 「粘土を使うクレイモデルを作るのに役立つかも、と勘違いしたんです(笑)」 しかし、これまで絵画を通じて好きだったのは鮮やかな色のある世界。自分で選んだとはいえ、土を練るばかりの色彩のない毎日に、最初は戸惑いを感じることもありましたが、陶磁器の表面に塗る釉薬への学びを深め、さまざまな色を表現できることを知るにつれ、陶芸の面白さにのめり込んでいくようになりました。
思いどおりにならないから、どんどんのめり込んだ

鼻がかわいい陶器のイノシシ
目で見ながら色使いを決める絵画と違い、釉薬は泥のような状態で、どう発色するかは焼いてみないと分かりません。それまでは「細かい所までこだわるタイプ」だったそうですが、陶芸は予想を裏切る結果の連続。計算通りの仕上がりにはならないと知りました。 「この頃から、もの作りに向き合う姿勢が変わりました。“手を離す大切さ”を知ったというか、大らかな性格になったと思います(笑)」 卒業後も働きながら陶芸を続け、28歳のときに滋賀県の信楽にある『陶芸の森』の研修生に。そこで出会った作家の取り計らいで、ベルギーのセントルーカス大学で3か月の陶芸研修を受けることができました。
ヨーロッパの風土を知り、現在につながる作風を確立

鳥は柴田さんの作品を代表するモチーフ。釉薬の持つ優しい色使いに心が和む
ベルギー滞在で驚いたのは、歴史や伝統を重んじる日本とは違う、ヨーロッパの陶芸風土でした。『絵の具で色を付けてもいいんじゃない?』みたいな自由さがあり、自分の中にある陶芸の世界が広がるのを感じたのだそう。 それまで「陶芸の作品を販売するなら器でないと」と思い込んでいた、という柴田さんですが、帰国後、以前から挑戦してみたかった「インテリアのオブジェとして飾れる作品」を作ってみよう、と焼きものの動物を制作。出品したところ反応は好評で、そのことがきっかけで現在の作風へとつながりました。 作品のモチーフに動物を選んだのは、幼い頃から鳥やウサギ、猫などの動物たちが身近にいて、彼らが時折見せる、思わず笑顔になるような表情・仕草が、心の中に大切にしまわれていたからだそうです。
あれこれ考えすぎず、目の前の「土」に集中する

手の中の感覚をたよりに、ひとつひとつ形を作っていく
作品を作る上で大切にしていることのひとつは、独特のぽってりしたフォルム。 まずは柔らかさや厚みが均一になるよう、ゆっくりと土を練りながら成形します。この時のポイントは、頭で考えたルールにしばられず、手の中にある感覚に忠実に作ること。土を触っていると「これはアリ、これはナシ」とハッキリと分かるそうで、それはあくまで目の前の土に向き合ってこそ感じられるもの。同じ形を再現することもできません。 「型をあえて作らず、手の中で勢いがある作り方をした方が、不思議と満足のいくものになる」と柴田さんは言います。 成形を終えたあとは、少し寝かせて土の中の水分を飛ばします。そうすると適度な硬さが生まれ、このあと模様を彫る工程がスムーズになるのだそうです。
立体に乗せていくことで生まれる色の美しさがある

釉薬の色サンプル。凹凸があることで色に独特の表情が加わる
作品を出品し始めた当時は白一色で焼いていましたが、豊かな色彩が好きな柴田さんは、試しに釉薬で色を付けた動物を作ってみたところ、とてもしっくりきたそう。以降は自由な発想で、カラフルな色使いを楽しむようになりました。 作品の特徴である、動物たちのカラダに彫られた柄には、釉薬でこそ生まれる色の魅力を表現する、という役割もあります。最初は「焼き終えるまで色味が分からないことがイヤでしょうがなかった」そうですが、凹凸がある部分に色が溜まる様子や独特の濃淡など、絵の具にはない美しさを知るうちに、「心の目で仕上がりを想像しながら」模様を削り、色を乗せていく工程がすっかり楽しみになったのだとか。
恩師がかけてくれたひと言が、今でも制作の支えに

迫力ある陶器の羊。ときにはこんな大きい作品を作ることも
絵画から陶芸に、器からオブジェに、白一色から豊かな色使いに。これまでのやり方にこだわらず、新しい道を選ぶことで自分らしい作風を切り開く。そんな姿勢の裏には、絵画教室時代の恩師がかけてくれた言葉がありました。 作品の方向性が定まらないことに悩んでいた当時の柴田さんに先生は「変わることが普通だよ。今から何十年も同じことを続けるなんてありえないでしょ」と言ったそうです。 「先生は何気なく言ったと思うんですけど、ずっと心に残っていて。だから私は変わることが怖くないし、むしろ『変わりたい!』って思えるんですよね」
いつかまた、違う国に旅して制作に打ち込むのが夢

こちらを見つめる動物たちは、なんと引き出しの「取っ手」。引き出しを開けるのが楽しくなりそう
昔から大の旅好きで、世界のさまざまな国を訪れてきました。子どもが大きくなったら、また違う国で物作りをしたい、というのが柴田さんの目標です。 というのも、以前タイに行った後そのままフィンランドに行く、という強行軍で旅をしたとき、風景の持つ色がそれぞれの国であまりに違うことに改めて驚いたのだとか。 「ひと口に“赤”と言っても、場所や気候が違うと、感じ方も見え方も明らかに変わるんです。外国の空気を感じ、違う食事をし、現地の材料を使ってものを作る。そういう刺激から新しい作品が生まれてくる楽しみを、いつかもう一度、味わいに行こうと思います」
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