更新し続けるフレンチの「クラシック」を和歌山から発信する。[オテル・ド・ヨシノ/和歌山県和歌山市]by ONESTORY
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更新し続けるフレンチの「クラシック」を和歌山から発信する。[オテル・ド・ヨシノ/和歌山県和歌山市]by ONESTORY

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から和歌山県和歌山市の「オテル・ド・ヨシノ」を紹介します。

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ガストロノミーは「ローカルこそがグローバル」な時代。日本国内でも、北から南まで、料理を通じてその土地の魅力を発信せんとするレストランが、県外、そして海外からもゲストを集め、東京や京阪の繁盛店に劣らぬ存在感を示しています。そんな中で、和歌山県和歌山市で開業から13年を迎える『オテル・ド・ヨシノ』手島純也シェフの立ち位置は、ほかとは少し異なります。 フランス修業から帰国して11年、今年43歳の手島シェフが全キャリアを賭けて取り組んでいるのは、第一に伝統的なフランス料理の継承です。世界の潮流に足並みをそろえるよう、皿に個性や表現を載せるプレゼンテーション全盛のガストロノミー界にあって「温故知新」を頑ななまでに貫き、「フランス料理であること」にこだわり続ける手島氏の料理は、逆説的に際立った個性を放ち、食べ手を惹きつけて止みません。手島氏がどういった経緯で今のスタイルにたどり着いたのか、そしてこれからの時代に思うこととは。和歌山でじっくり話を聞きました。

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フランス料理の技が集約された一皿をスペシャリテに

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古座川町鹿肉のパイ包み焼き。トランペット茸とほうれん草のソテー、根セロリのピューレを添えて

手島純也シェフのスペシャリテは、ジビエのパイ包み焼き。鹿や野鳥などの胸肉をフォアグラのソテーと重ねて成形し、ジビエの端肉や豚の背脂などで作るファルスと一緒にフィユタージュという折りパイ生地に包んで形を整え、オーブンで焼き上げた料理です。 「パイの中身はすべて、火入れの温度帯が異なり、それぞれに適切に火を入れた上で、表面のパイをパリッと香ばしく焼き上げる。加えて、ソースの良し悪しも大きく味を左右する。フランス料理の技術の粋が詰まった一品です」

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開店直前の店内。隅々まで磨き上げられた空間が、清々しい

山梨県で両親が居酒屋を営む家に生まれた手島シェフ。子供の頃から料理と厨房に親しみ、ごく自然に料理人の道を選びました。地元・山梨のレストランで働き始め、次はどこで修業すべきか。迷っていたときに訪れたのが、吉野建シェフがパリにオープンした『ステラマリス』でした。そこで初めて食べたジビエのパイ包み焼きのおいしさに衝撃を受けたといいます。この店で働きたい。すぐさま吉野シェフに手紙をしたため、同店の厨房での修業が始まりました。その頃は、まさかその5年後から11年の長きに渡り『ヨシノ』ブランドの看板を背負い続けることになるとは思いもせずに。

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パイ包み焼きと並ぶスペシャリテ、コンソメ。この日は、古座川町の鹿で。深い旨みの余韻が長く続く

『オテル・ド・ヨシノ』は名の通り、吉野シェフが総料理長を務める『レストラン タテル・ヨシノ』の系列店として2005年に和歌山にオープンしたレストランです。地方のレストランといえば、即、深い森に囲まれた、あるいは川辺や海に面した自然豊かなロケーションを想像する人は、はるばるたどり着いたとき、やや拍子抜けするかもしれません。店があるのは和歌山市の市街地に立つ県民交流施設の中。関西国際空港から空港バスで約1時間、和歌山駅から車で7、8分という場所です。ゆえに近県から、あるいは東京からも、日帰りでゲストが食事に訪れます。目当てはただひとつ、手島シェフの料理です。

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逆境を乗り越え「和歌山に手島あり」といわれる店に

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店内の窓からの景色。和歌山城も見える

地上12階に位置するレストランは、和歌山市の市街地を一望できる大きな窓が周囲を囲む、視界の開けた気持ちのよい空間。席の配置もゆったり贅沢で、テーブルには糊のきいたクロスがぴしっと張られています。設えはシンプル。レストランは、地方であればなおさら、空間づくりから始まる演出に力点を置く店が増えているように感じますが、『オテル・ド・ヨシノ』は、その流れにありません。例えていうなら、真っ新なプレートのような空間。運ばれてくる料理一皿、一皿の圧倒的な重厚感、芳しさ、力強さが空間のテンションを生み出します。深みのある琥珀色のコンソメスープ。濃厚な甲殻類のジュレと雲丹の冷前菜。そしてさまざまな旨みが重なり合うパイ包み焼き。どれを取っても、堂々たるクラシック。40代のシェフで、これらの料理を追求する料理人には、店の数が多い東京でもなかなか出会えません。

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手島氏のポジションはソーシエ。フランス料理は「ソースが命」が口癖

手島氏が『オテル・ド・ヨシノ』のシェフに就任したのは、5年間のフランス修業から帰国した直後。ミシュランガイド東京が初めて発刊された2007年のことです。そこで星を取ったのが、日本のフランス料理を切り拓いてきた先達でなく、新しく軽やかな料理を標榜する若い料理人たちであることに深い衝撃を受けたといいます。同世代の料理人には負けたくないという気持ちが強くありました。開業から2年を過ぎた店は、オープン景気も一段落。思うように伸びない予約に焦りも覚えます。

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イワシのマリネは、サーディン缶よろしく、缶を器代わりに。トマトゼリー、パプリカムース、ディルを添えて

「何が正解か、迷ってばかりいて。最初の3年は気持ちも料理もブレブレでしたね」と、苦笑します。過ぎてみればあっという間の3年も、渦中にあっては、辛く長い時代。逆境から抜け出す手助けになったのが、「フランス料理が好き」という気持ちでした。自分が食べて感動した味に向かって真っすぐ、技術を磨き、経験を重ねることで、完成度を上げていこう。そう思い切ってクラシックに舵を切ると同時に、事態は好転し始めました。好きだから、覚悟を持って挑める。好きだから、努力し続けられる。誰よりも深いフランス料理愛が、「和歌山に手島あり」という現状を作り出したのです。

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重層的でリッチな味わいの先にある軽やかさ

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デセール。日高川町のみかん農家『藏光農園』の「ゆら早生」のコンポートとミルクアイス

『オテル・ド・ヨシノ』の厨房には窓がたくさんあり、昼間は自然光がさんさんと射し込みます。広さも十分で、小さなホテルのセントラルキッチンくらいのサイズ。東京の小さな店が3、4軒、入ってしまう大きさといったほうがわかりやすいでしょうか。日本のレストランでは見たことがないレベルです。 「この上なく恵まれた環境だと日々感謝しながら料理しています。快適な厨房で、僕はオーナーシェフじゃないから、雑務や経営のあれこれについて考えることも少なくて済む。だから料理を、もっともっとおいしく作らなきゃいけないんです」

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魚料理に使うソース・アルベールの仕込み中。芳しい香りが漂う

レストランの選択肢が数多ある時代「クラシックなフレンチは重くて、食べ疲れする」と考える人が増えているのも事実です。そういう人こそ、手島シェフの料理を食べてみて頂きたい。どの皿も味わいは、リッチで重層的ですが、重さはまったくありません。「クラシック=古い」という考えも払拭されることでしょう。メニューそのものは古典ながら、「今」を感じる料理。50、60代の重鎮のシェフが作る料理ともひと味違う、シャープで勢いのあるクラシックだと感じるはずです。

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ソースは大量に仕込むことで素材の味をしっかり引き出し、提供前に骨や内臓を加え、保存の過程で損なわれた香りを補う

手島シェフは、贅沢な素材を惜しみなく使い、手間を十分にかけて「重層感、複雑さ」を引き出すことを徹底しています。その「掛け算のおいしさ」こそが、フランス料理の真の味わいだと考えるからです。その上で、塩加減、油脂の量、洋酒の効かせ方などをギリギリのラインで調整し、料理の骨格はそのまま、現代の日本人が食べて疲れない軽やかでエレガントな味わいに仕上げていくのです。

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パリ在住の著名な美食家で、ジョエル・ロブション氏とも親交の深かった富井軌一氏。日本を訪れるたび『オテル・ド・ヨシノ』にも食事に訪れる

プレゼンテーションやメッセージ性に重きを置いた店が増える中で、「レストランの料理は、おいしくなければ」と繰り返す手島シェフ。フランスの食文化と古典料理にしっかり根を張りながら、今のレストランに求められる「おいしさ」を探り続け、そして磨き続けているのです。

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