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2023.10.06
奈良の城下町・大和郡山で、老舗、金魚、カフェや城跡をめぐる1日さんぽ
奈良県北西部に広がる奈良盆地の中央あたりにある大和郡山市(以下、大和郡山)。最寄りの駅は、近鉄電車橿原線近鉄郡山駅とJR大和路線郡山駅です。2つの駅は中心市街を挟んで東西にあり、降り立つと近鉄電車側はレトロな雰囲気。JR側は住宅街ながら一歩中へ入るとお城の外堀跡などがあり、歴史を感じさせます。 老舗の和菓子店や時を超えて存在する町家、大和一国(現在の奈良県)の政治、経済、文化の中心だったことを知る城跡。また、こだわりあるカフェや個性的なショップもある大和郡山へワンデートリップ。 桜の季節はもちろん、これから朱に染まる紅葉の季節も素敵な町へ。おいしいものを味わいながら、おさんぽしてみませんか。
元遊郭だった登録有形文化財のお屋敷「町家物語館」
金魚と戯れ、藍染め体験もできる箱本館「紺屋」
豊臣秀吉の時代から愛される銘菓「本家菊屋」
華やかなランチや素朴な洋菓子に癒される「corolle kissa」
戦国時代の名将と呼ばれた武将たちが関わる、国指定の史跡「郡山城跡」
元遊郭だった登録有形文化財のお屋敷「町家物語館」

井戸を配す中庭
めずらしい木造三階建ての近代和風建築として、また現存する貴重な遊廓のお屋敷として見ごたえのある「町家物語館」は、登録有形文化財の旧川本家住宅です。2014(平成26)年に登録され、4年後から耐震工事を経て無料で一般公開されています。

(左上)3階の客室の飾り窓(右上)ハート形をした猪の目窓(右下)以前、迫力ある14段飾りのひな人形が飾られたこともある、2階から3階へ続く大階段(左下)細かい飾り細工が美しいガラス障子
建築物としても貴重で、今ではなかなか見られないディテールと出会えます。象徴的なのは、3つのハート窓。魔よけの意味が込められた猪の目窓で、1階の台所から続く吹き抜けの2階部分にあります。また、吊り床の間がある数寄屋造りの部屋や、1階には中庭と裏庭があり、その奥に蔵があるのも大きなお屋敷ならではです。 さらに、階段が幾つもあるのも特徴。お客様用、遊郭の娼妓や使用人用に、家主である川本家の住まいとしての階段があり、なかでも2階から3階に続く大階段は圧巻です。

威風堂々という言葉が似合う間口6間半ある玄関
上流花街の繁栄が形になり今も残る「町家物語館」。訪れると、まず見上げるような3階建てに圧倒されます。建物の美しさを象徴する1階から3階にかけての格子は、外から見るとすべて同じのように見えますが、実は各階ごとに意匠が違います。そのあたりのお話は、この館を訪れて、歴史とともにガイドの方から聞くことができますよ。
町家物語館
マチヤモノガタリカン
金魚と戯れ、藍染め体験もできる箱本館「紺屋」

金魚コレクションの伊万里焼色絵急須は大正時代のもの。奥は昭和期の瀬戸焼染付急須
水槽で元気に泳ぐ金魚たちがお出迎えする箱本館「紺屋」。江戸時代から続いた藍染め商の町家(奥野家)を修復再生した建物で、金魚をモチーフにしたコレクション展示や藍染め体験が出来る施設です。 郡山と金魚の関わりは古く、江戸時代中頃に郡山藩主を務めた柳澤吉里が、国替えで郡山へやって来た時に持ち込まれたといわれています。 その後、明治時代になると、旧士族や農家の副業として、金魚養殖が盛んになりました。当時は、「柳澤養魚研究場」もあったそうで、なかなか本格的な事業であったことがうかがえます。

(左上)入り口すぐに古い藍甕がある(右上)金魚の描き方が、時代や国で違うのが面白いコレクションの数々(右下)藍染め体験は、ハンカチ900円~(左下)紺屋川が目の前に流れるのも藍染めの商家ならでは
藍染め体験工房は別棟にあります。天然灰汁発酵建てという昔ながらの方法で仕込む藍を使い、ハンカチやバンダナを輪ゴムなどで簡単に模様付けしたり、ロウで模様を描いたりして藍染めを体験できます。所要時間は90分程度で、当日でも電話予約がおすすめです。体験できる時間は、曜日によって違うので、予約がてら電話で聞くといいですね。
箱本館「紺屋」
ハコモトカンコンヤ
豊臣秀吉の時代から愛される銘菓「本家菊屋」

店頭で食べていく人もいるという「御城之口餅」6個入り770円~
26代目当主がのれんを守る老舗御菓子司「本家菊屋」。1585(天正13)年に創業した、奈良で最も古い菓子店といわれています。 銘菓は、上品な甘さの粒餡をとろけるような餅で包み、きな粉をまぶした「御城之口餅」(おしろのくちもち)。豊臣秀吉の右腕として手腕を発揮した当時の郡山城主・豊臣秀長が、兄の秀吉を招くお茶会で珍しいお菓子を出したいと、初代・菊屋治兵衛に頼み作らせたことから始まるひと口サイズのお菓子です。

(左上)正倉院文様の箱が素敵な「鹿もなか」5個入り1250円~や「菊之寿」5個入り1500円~、「奈良まほろば金魚」550円(右上)天井には昔の菓子型が並ぶ(右下)店頭に座り、買ったお菓子をさっそく食べる人も(左下)昔ながらの風格ある店内
「御城之口餅」は、お城の入口で売っているお餅からついた通称で現在は菓子名になっていますが、最初は鶯餅と呼ばれました。鶯餅と命名したのは豊臣秀吉。当時のおいしいものを知るであろう秀吉が気に入ったお餅は、今では奈良県の銘菓、おみやげとしても知られています。 時代が変わった今も愛される理由は、丹波大納言小豆や近江産羽二重餅米といった、上質の材料で仕上げるからこそ。秋には、栗入り羊羹の秋のめぐみ、人気の栗まんじゅうに、秋限定の生菓子や干菓子なども気になります。
本家菊屋 本店
ホンケキクヤホンテン
華やかなランチや素朴な洋菓子に癒される「corolle kissa」

季節の自家製ポタージュ付き、カフェ丼1320円。ある日は蒸し豚の香味ソース、無花果のローズマリーマリネやグリル野菜など7種のおかずがごはんの上に
北郡山交差点から北へすぐの東側にある「corolle kissa」。オーナーはお隣のお花屋さんで、フラワーアレンジレッスン後にお茶が飲めるカフェ空間としてちょうど良いと、2019年にカフェをオープン。4年後の今年は、ごはんやスイーツを充実させて、メニューをリニューアルしています。 ランチは、キッシュプレートとクロックムッシュプレートともう一つ、一番人気のカフェ丼です。陶器のおひつに、地元産のお米を使うごはんをよそい、その上に月替わりで数種類のおかずをのせたスタイルで、華やかな見た目といろんな味が楽しめます。

(左上)カフェラテ638円、キャロットケーキ528円※テイクアウトは486円(右上)こじんまりと居心地の良い空間(右下)焼き菓子205円~などをおみやげに(左下)店内でお花屋さんと繋がっている
スイーツと一緒にお茶時間も楽しめます。ブレンドコーヒーは、焙煎後の鮮度にこだわる県内の焙煎工房「香豆舎」にオーダーするオリジナルブレンド。また、ドリンクとともに味わえる甘いものは、すべて若手の女性たちが丁寧につくっています。 例えば日替りケーキは、チーズケーキや季節のタルトなど。木枠のショーケースに常時5種ほど用意し、売り切れ次第終了です。スパイスを使う人気のキャロットケーキは、季節ごとに素材や配合を変えてアレンジを加えるほどのこだわり。また、ランチのカフェ丼で使うものよりひと回り小さなおひつに入れた季節のパフェも男女問わず好評です。 旬の食材や季節を意識した味わいを、気軽な喫茶店で楽しんでほしいという思いが伝わるメニューばかりです。
corolle kissa
コロールキッサ
戦国時代の名将と呼ばれた武将たちが関わる、国指定の史跡「郡山城跡」

1983(昭和58)年に復元された追手門
大和一国の政治、経済、文化の中心地として栄えた歴史ある「郡山城」。1580(天正8)年に、織田信長の命により臣下だった武将・筒井順慶が築城し、大和でもっとも大規模な城郭でした。近世期には、豊臣秀吉の弟・秀長が城主となり、関ケ原の合戦後には一時廃城となりましたが、大坂夏の陣を経て水野勝成、松平忠明、本多政勝、松平信之、本多忠平らも入城。その後、1724(享保9)年に柳澤家の居城となりました。 城主となったのは、柳澤吉里です。徳川綱吉の大老格を勤めた柳澤吉保の長男で、実は徳川綱吉の寵愛を受け、徳川家から一目置かれた人物。大和国(現在の奈良)の政治の中心地として初代藩主となり手腕を発揮したといわれます。

(上)2017(平成29)年に天守台展望施設が完成(下)展望施設から見た東側
時代が変わって明治時代に廃城となり、その後、昭和時代に市民活動で追手門が復元されて、追手東隅櫓と多聞櫓、追手向櫓も順次復元されました。 また、平成時代に4年をかけて、崩落の恐れがあった天守台の石垣の修復と展望施設の整備を行い、郡山城を彩る春の桜、秋の紅葉、早春の梅などが楽しめるスポットへ。晴れた日には、大和郡山の町並みとともに、平城京大極殿や薬師寺、若草山までを望むことができるといいます。展望施設は10~3月は7時から17時まで、4~9月は7時から19時まで開いています。

(左上)毘沙門郭跡にある柳沢文庫(右上)天守台の北側にあるさかさ地蔵(左下)令和3年に再建された極楽橋(右下)本丸跡にある柳澤神社
国指定の史跡「郡山城跡」には、さまざまな見どころがあります。ひとつは「柳沢文庫(旧柳澤伯爵家郡山別邸)」です。柳澤家から寄贈された柳澤家歴代藩主の書画や郡山藩の公用記録といった藩政資料など数万点を所蔵。年に3回開催される展覧会で公開されています。2023年10月7日(土)から12月24日(日)までは、企画展2『吉里研究序説②甲斐国主 柳澤吉里』が行われます。 また城跡内には、柳澤吉保を祭神として旧藩士らにより明治期に建てられた「柳澤神社」。さらに、豊臣秀長時代の城郭拡大により資材が足りず、さまざまなところから集められた転用石材には、石垣の築石としてさかさまに突っ込まれている「さかさ地蔵」もあり、それぞれの逸話を知りながらめぐると時間が経つのを忘れます。
史跡 郡山城跡
シセキコオリヤマジョウアト
秋晴れの日にテラス席でのんびり「番屋カフェ」

ほんのり梅風味の柿の葉ソーダ600円、柿酢カッシュ600円、抹茶パフェ900円
かつての番屋を改装した郡山城跡内にある「番屋カフェ」。柳澤家が徳川幕府に献上していたという三輪そうめんを使用した、寒い季節のにゅうめんとちりめんごはんのセット900円、暑い季節の冷やしそうめん850円、サラダ付き御殿カレー900円といった軽食もあれば、前日までに予約すれば味わえるBANYA AFTERNOON TEA 2500円(2名~)などカフェメニューも充実しています。 お城もなかがかわいい抹茶パフェは、下から抹茶ソースにシフォンケーキ、抹茶プリン、わらび餅、生クリームにあんこ、抹茶アイスと抹茶づくし。栗ものっていて、食べ応えがありますよ。

(左)テラス席からは天守台が見える。愛犬と同席できるドッグランサークル席もある(右上)テラス席にある古代木造塔の心礎という石(右下)屋根瓦など番屋らしい雰囲気
江戸時代の柱などが残る店内は、昔の郡山城を描く絵画などもありますが、開放的なテラス席が人気です。天守台の石垣をみながらおいしい和スイーツや奈良らしいドリンクなどを味わいましょう。
番屋カフェ
バンヤカフェ
流行にとらわれず “日々、着るもの” をセレクトする「hibikiru」

道路に面した窓を利用し2か月に1度、奈良市内のクレープのお店が出店するなど、週末を中心に何かしらイベントがあるのも楽しい
近鉄電車近鉄郡山駅から郡山城跡に向かう道すがら、地蔵尊のある踏み切り手前の角にある洋服のセレクトショップ「hibikiru」。 地元在住、大手ファッションブランドを経て独立した店主によるお店です。店主曰く「路面店としてできることは、一歩先のこと」。洋服のことはもちろん、その人その人に合う生き方や楽しみ方も提案できる場所、憩いの場所になればと考えて、店内でポップアップショップをしたりと、さまざまな仕掛けを考えています。

(左上)無地はhibikiruオリジナルソックス「cotton knit for foot」3080円、Oo のバンドルダイリブソックス3080円(右上・下)会話しながら選ぶの楽しいお店(左下)コーヒーやクレープ粉に、クッキーなど奈良県内のおいしいものも
ファッションデザイナー・村中研志郎さんのオリジナルブランド 「MarchAprilMay」(マーチエイプリルメイ)と「MAY/FOOL」(メイフール)、刺繍などの手仕事に重点をおいたコレクションを発表する「Hériter」(エリテ)など、シンプルで着やすいけど個性的なアイテムがそろうブランドを、店主の目線でセレクトして置いています。 靴下の産地の奈良県だからこそ、糸や編み方にこだわり県内の靴下工場にオーダーしたオリジナルも販売。オーガニックコットンの糸をホールガメントで筒状に編み上げた、ストレスフリーの靴下もあります。
hibikiru
ヒビキル
【ひと足のばして】時間を忘れる心安らぐお庭「慈光院」

白砂とサツキ(5月下旬から6月上旬)、奈良盆地を一望できる借景も素晴らしい200坪の庭園
JR郡山駅からひと駅の大和小泉駅。そこから徒歩18分、バスかタクシーなら7分程度の富雄川沿いにある「慈光院」は、臨済宗大徳寺派の寺院です。1663(寛文3)年に、大和小泉藩2代目藩主の片桐貞昌(かたぎりさだまさ)が、初代藩主である父・貞隆を弔うために菩提寺として建立しました。

(左)拝観料に抹茶の接待も含み、片桐家の家紋の割羽違いの餡入り干菓子と抹茶を味わう時間が楽しめる(右上)12畳の書院席。好きな場所に座りのんびりできる(右下)重要文化財の茅葺き入母屋造りの書院
片桐貞昌は、江戸時代の大名であり茶人。片桐石州の名で知られる茶道石州流の祖でもあります。寺院ではもてなすことを考えた造りで、受付から奥へ入ると書院があり、竹林院、當麻寺中之坊庭園と並ぶ大和三名園のひとつ、国指定の史跡・名勝の枯山水庭園が広がります。 仏さまに手を合わせることも大切ですが、肩肘張らず気持ちが落ち着く寺院で、鳥の鳴き声、時おり吹く心地良い風を感じながら、ゆったりした時間を。また、重要文化財の茶室、高林庵と閑茶室もあるので拝観しましょう。

(左上・右上)一の門から入って参道を歩き、どんどん別世界へ(左下・右下)本堂には釈迦如来坐像、片桐石州像、開山した玉舟和尚像が祀られる
一の門から茨木門へと進むと非日常を感じ、玄関に到着するまでに、まず心が穏やかになっていることに気づくお寺。前日までに予約をすれば茶懐石麺として知られる油不入麺の石州麺1200円が味わえたり、10日前の予約で玉ねぎ丸煮といった名物もある精進料理7000円も味わえます。
慈光院
ジコウイン
そぞろ歩きで大和郡山の町並みも楽しんで

奈良の政治・経済・文化を担ってきた大和郡山だからこそ、少し立ち止まりさまざまな場所を深堀すると、歴史とともになるほどと思うことがたくさんあります。 2024年は、吉里の郡山入城300年という柳澤家、そして、郡山城にとって節目の年にあたります。来年また注目を集める前に、歴史ある町をひと足お先に楽しむおさんぽへ。紅葉に誘われて訪れてみるのもおすすめですよ。 また、大和郡山では、新しく定期マーケット「大和是好日」も開催しています。城下町の老舗店から新たに創業されたお店まで、約30店舗が出店するイベント。次の開催は11月25日と2024年3月23日なので、あわせてチェックしてみてくださいね。
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土井淑子 撮影:木村有希
一般社団法人 大和郡山市観光協会

大和郡山市は「平和のシンボル、金魚が泳ぐ城下町」。日本でも有数の金魚の産地で、毎年8月には全国金魚すくい選手権大会も開催されています。また、国史跡指定の郡山城跡もあるので、金魚と歴史にふれる城下町さんぽが楽しめます。
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