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2024.03.05
紫式部と源氏物語をめぐる京都・宇治川さんぽ ~平安の雅と香り高い宇治茶を満喫♪~
今年の大河ドラマ『光る君へ』の主人公は『源氏物語』の作者である紫式部。その舞台のひとつとなったのが宇治です。宇治上神社と並び世界遺産にも登録されている平等院は、紫式部もその一員であった藤原氏の栄華を今に伝えます。宇治市源氏物語ミュージアムでは物語の世界観を体験し、華やかな平安時代に思いをはせましょう。また、宇治といえばお茶の町。香り高い宇治茶を味わったり、お抹茶体験をしてみませんか。
源氏物語と平安の貴族文化を体験できる「宇治市源氏物語ミュージアム」
雅な王朝文学の世界が広がる「平安の間」
宇治川の東岸をめぐるさんぽ道「さわらびの道」に、源氏物語の世界にひたれる「宇治市源氏物語ミュージアム」があります。左右対称のフォルムで入口付近に池が広がる建物は、平安時代の貴族の住宅であった寝殿造をイメージしているそう。 まずは平安京と光源氏がテーマの「平安の間」で、源氏物語のあらすじを映像で予習。平安装束に身を包み囲碁を楽しむ女性やそれを御簾越しに垣間見る貴公子の姿は、平安時代の恋愛のはじまりを想像させます。
(上段)「平安の間」の牛車と六条院の復元模型。牛車は車輪の直径が2m近くもある (下段)「宇治の間」の八の宮邸と映像。八の宮邸はミュージアムのある宇治川東岸にあるとされた
光源氏の邸宅であった六条院の復元模型や実物大の牛車も展示。それぞれに女君が住んだ4つの町からなる六条院は、『源氏物語』で描写されていたとおりの姿。春の町からは、今にも紫の上が姿を現しそうな気配が漂い、源氏物語ファンなら見あきることはありません。 次は宇治十帖がテーマの「宇治の間」へ。こちらの照明演出はスクリーンだけでなく床にも映し出され臨場感たっぷり。光源氏の死後、その子の薫や、孫の匂宮の恋物語を中心とした宇治十帖の名場面が、次々に繰り広げられます。また、薫が八の宮邸を初めて訪れ、2人の姫君を垣間見た場面も再現されています。
(左)源氏香の体験コーナー。ルールをわかりやすく説明 (右上)「物語の間」では『源氏物語』のあらすじをまとめたパネルも (右下)さわらびの道は桜や紅葉の名所
ミュージアムの中で盛り上がるのが「物語の間」。『源氏物語』にも平安貴族がその装束にたきしめたという香が鍵となる話がいくつかありますが、こちらでは身近な香りを使った「源氏香」を体験することができます。5つの香りを鑑賞し、異同の組み合わせを当てる遊びです。 館内には、オリジナルアニメの上映や、『源氏物語』に関する書籍を集めた図書室、源氏物語や宇治茶にちなんだメニューが話題のミュージアムカフェもあります。ひと息つきながら、時間をかけてめぐってみましょう。
宇治市源氏物語ミュージアム
ウジシゲンジモノガタリミュージアム
茶どころ宇治の魅力を余すところなく伝える「お茶と宇治のまち交流館 茶づな」
自分で茶葉を挽き、点てて飲む体験をすれば理解が深まる
宇治市源氏物語ミュージアムで『源氏物語』の世界に浸ったら、次は宇治のもうひとつの顔「宇治茶」について学びましょう。京阪宇治線の宇治駅にほぼ隣接する「お茶と宇治のまち交流館 茶づな」は、宇治茶と宇治の歴史や文化を見て、知って、学ぶミュージアムや、体験ができるスポットです。 なかでも、ほぼ毎日開催されるお茶の体験は、聞き茶(飲み比べ)、お茶の淹れ方、お茶碗や茶筒作りなどバラエティーが豊か。ネットで予約して手ぶらで現地に行くだけで、本場宇治で本格的な体験ができるとあって人気だそう。
(左上)ガラス張りの体験室からは茶園が見渡せる (右上)石臼は挽くにつれだんだん重くなっていく (下段)抹茶は、自分で挽いたものと、市販のものの2服を味わえる。風味の違いを感じて
抹茶好きにおすすめなのは「茶臼から抹茶づくり体験」。体験は、お茶の歴史や、宇治茶がおいしい理由、製茶方法などの説明からスタートします。 碾茶という抹茶の原料を石臼で挽くこと10分あまり。抹茶が臼からこぼれ出るとその瞬間にふわりと香りが漂います。抹茶を棗(なつめ)に入れ、茶筅でお茶を点て、お菓子とともにいただくと、挽きたてならではのお茶の風味にうっとり。
(左上)館外には公園が広がる(右上)茶箱を開けると、映像やパネルなど様々な形で宇治茶の豆知識が (左下)豊臣秀吉が400年前に築いた太閤堤の史跡も公園内に (右下)例年4~5月には茶園で茶摘み体験が催される
茶づなには、お茶と宇治のすべてが分かるミュージアムも。お茶の種類や栽培方法をはじめ、昔ながらの製茶道具なども展示。歴史のエリアでは平等院鳳凰堂が描かれている巨大な十円玉が迎えてくれます。 館内のカフェには抹茶パフェもあり、ひと休みしながら宇治茶の魅力を味わい尽くしましょう。
光る君へ 宇治 大河ドラマ展
お茶と宇治のまち交流館「茶づな」では、大河ドラマ『光る君へ』の世界観や宇治ならではの映像、そして藤原氏が築いた平安時代の宇治の歴史文化を体感できる展示を開催します。
・期間:2024年3月11日(月)~2025年1月13日(祝)
・時間:9時~17時(最終入場16時30分まで)
・料金:大人500円、小人250円
・TEL:075-353-0870(運営管理事務局)
・主催:宇治市
お茶と宇治のまち交流館 茶づな
オチャトウジノマチコウリュウカン チャヅナ
平安時代の信仰と藤原氏の栄華を今に伝える「平等院」
完璧な左右対称の姿が印象的な鳳凰堂。水に映る影も美しい
光源氏のモデルとされる源融(みなもとのとおる)の別荘が、後に藤原道長の手に渡り、その子の頼通(よりみち)が寺に改めたのが平等院の始まり。1052(永承7)年のことでした。池には阿弥陀の宮殿さながらの絢爛豪華な鳳凰堂が浮かびます。 当時は、世の中が乱れる「末法の時代」に入ったとされ、人々の間に不安が高まっていた時期。そのため、心に極楽浄土や阿弥陀如来の姿を描くことができれば極楽に往生できると考えられ、裕福な貴族たちは目で見て想像の助けとなる仏像を盛んに作らせたのです。
(左)阿弥陀如来坐像。多くの木材を組み合わせる寄木造りで彫られている (右)雲中供養菩薩像全52体は鳳凰堂と鳳翔館に26体ずつ安置
鳳凰堂に安置されているのが、死の瞬間にまばゆい光とともに山のかなたから現れるとされる阿弥陀如来。平安時代のカリスマ仏師であった定朝の最高傑作のひとつです。そして堂内の壁には、阿弥陀如来に付き従う小さな仏様の姿も。 阿弥陀如来の宮殿がある極楽浄土は西にあるとされ、平等院も宇治川の西岸に建立されました。夕日を背にたたずむ鳳凰堂は、まるで後光がさしているようですよ。
(左)枝垂れ桜に彩られ春爛漫の鳳凰堂 (右上)茶房 藤花の「宇治玉露 冷茶」900円 (右下)鳳翔館の雲中供養菩薩像
鳳凰堂を後にしたら、ミュージアムの「鳳翔館」へ。ここでは、数々の寺宝が展示されており、さきほどの雲中供養菩薩像を間近で目にすることができます。踊ったり、楽器を弾いたり、生き生きとしたその姿は現代でも親しまれています。 鳳翔館そばにはカフェの「茶房 藤花」も。抹茶や煎茶などの宇治茶を平等院オリジナルの和菓子とともに味わえます。また春の桜から始まり、藤、夏の蓮など花の名所でもある平等院。もし、2度目の平等院なら、ぜひ時期や時間帯を変えて訪れてみましょう。
平等院
ビョウドウイン
日本最古の神社建築と名水が湧く「宇治上神社」
鎌倉時代建立の拝殿は国宝。美しい屋根の曲線が威厳をたたえる
かつては平等院の鎮守社であった宇治上神社。その歴史は古く創建は定かではありませんが、ある逸話が伝わります。 応神天皇の皇太子である菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)は、父が亡くなった後、兄である後の仁徳天皇に天皇の位を譲ります。ところが、兄は皇太子である弟が即位すべきと考え、兄弟で皇位を譲り合うことになりました。そうしているうちに世は乱れ始め、そのことを嘆いた菟道稚郎子は自ら命を絶ったのです。
(左)日本最古の神社建築である本殿は拝殿とともに国宝に指定 (右上)本殿の内部(建物内には入れません)(右下)「桐原水」はもともとお参り前に手を清めるための手水であったという説も
神社には菟道稚郎子の御霊を慰めるため、菟道稚郎子とその父である応神天皇、兄の仁徳天皇が、平安時代に建立された日本最古の神社建築である本殿に祀られています。格子戸から本殿の中を窺うとお社が3つ。それぞれに神様が1柱ずつ祀られ、それを大きな建物で覆う覆屋(おおいや)という形です。 また境内には、宇治のお茶を支えた「宇治七名水」のひとつに数えられ、現存する唯一の名水である「桐原水」が今なおこんこんと湧き続けます。
(左)季節によって色が変わる御朱印(写真は春の一例)。流れるような文字も美しい (右上)パステルカラーのうさぎのおみくじ500円 (右下)うさぎ七宝守700円。カラフルな玉にうさぎの姿が
御祭神の菟道稚郎子の名にある「菟道」は、宇治の古い地名でした。そのことにちなみ、宇治上神社ではうさぎのおみくじやお守りが授与されています。中におみくじが入った陶器のうさぎみくじは、お守り代わりにそばに置いておきたくなるかわいさですね。 藤原氏が平等院を創建した後は、鎮守社として信仰を集めた宇治上神社。平等院からは宇治川にかかる橋を渡り約10分、宇治市源氏物語ミュージアムへはさわらびの道を進み2~3分の距離です。世界遺産にも登録されている境内で、平安時代の荘厳な趣を感じてみませんか。
宇治上神社
ウジカミジンジャ
新たな抹茶の楽しみ方を発見「抹茶ロースタリー」
ロースト抹茶ドリンク500円と、ロースト抹茶クリームとあんこのクロワッサンサンド500円。ロースト抹茶、生クリーム、あんこの相性が絶妙
「本格的な抹茶をカジュアルに楽しみたい。それも雰囲気ある町家カフェで」という願いが叶うカフェ「抹茶ロースタリー」。宇治の抹茶をコーヒー感覚で気軽に楽しめるようにと、オーナーが完成させた新感覚のドリンク「ロースト抹茶」が注目を集めています。 一番摘みの碾茶を焙煎し石臼で挽くロースト抹茶は、ひとことでいうなら「味は抹茶、香りはほうじ茶」。焙煎することで抹茶特有の苦みがまろやかになり、旨味が引き出されるそうです。 また、ドリンクとしてだけでなく、ロースト抹茶を使ったスイーツも。バスクチーズケーキやマフィンなどの焼き菓子をはじめ、ジェラートやクレームアンジュ、羊羹やおはぎなどの和菓子までがスタンバイ。
(左))坪庭を望む隠れ家のような店内。BGMは70年代のアメリカンポップス (右上)ロースト抹茶パウダー(ライト、ミディアム、ダーク)各1500円 (右下)外装のタイルアートもかわいい
ロースト抹茶ドリンクには、焙煎方法の異なる3タイプがあります。浅煎りの「ライト」はほんのり香ばしさが感じられる抹茶、深煎りの「ダーク」はコーヒーのようなロースト感とコクが持ち味、「ミディアム」はその両方の良いところ取りです。 さらに、おみやげ用のロースト抹茶パウダーも販売。飲み方は、ウェブサイトを参考にしてくださいね。ラテやフラッペなどのドリンク系だけでなく、ロースト抹茶を使ったクッキーやケーキ、クロワッサンサンドまで、カフェメニューのほとんどのレシピが紹介されています。 お店は、オーナーの生まれ育った築110年を超える町家の離れ。坪庭をのぞむ静謐な空間で落ち着いた時が過ごせます。また、抹茶ロースタリーがあるのは、感度の高い店が集まる中宇治という注目のエリア。ぜひ、平等院の行き帰りに立ち寄ってみませんか。
抹茶ロースタリー
マッチャロースタリー
イタリアンな進化系茶粥と新鮮な大原野菜が魅力の「afuhi uji」
「茶粥風 鯛と大原野菜の緑茶おじやんリゾットのセット」1850円(プラス300円で季節のミニデザート付き)
先ほど紹介した中宇治エリアで、宇治ならではのイタリアンを味わってみませんか。「afuhi uji」は、京都の大原でとれた新鮮野菜がおいしい町家レストラン。こちらの名物料理は、炊いたご飯を煮込み、おじや風に仕上げる「おじやんリゾット」です。 多数あるリゾットのなかでも、茶粥風の一皿は、鯛のだしが利いたリッチなスープに緑茶が香る濃厚な味わい。薬味のフレッシュ柚子胡椒やしば漬けで味変しながらいただきましょう。添えられた「ちょこっと野菜」も、野菜本来の香りや甘味が生きた主役級のおいしさ。セットは、ほかに野菜のタパス、ピクルス、スープとドリンクが付く盛りだくさんの内容です。さらに、お得なデザートセットを追加することもできます。
(左)中宇治の細い路地にたたずむ古民家イタリアン (右上)「お野菜プレート」1800円~ (右下)1階はお座敷席、2階はテーブル席。どちらも靴を脱いで上がる
afuhiで使われる目にも鮮やかな野菜は、京都市北部の大原や静原の畑で無農薬・低農薬で育てられたものがメイン。寒暖の差がある気候でていねいに育てられた野菜は甘味もたっぷりです。ちりめんキャベツのような、他では見かけない珍しい野菜が使われるのも特徴で、自家製アンチョビソースや岩塩でシンプルに味わいましょう。評判の自家製アンチョビソースはおみやげに買って帰る人もいるそうですよ。 カフェタイムには、シチリアのお菓子カンノーリをafuhi風にアレンジした人気のスイーツや、お野菜ジェラートでくつろぐこともできます。また、店名の「あふ」は会う、「ひ」は神様の力という意味があり、野菜や人との出会いをとりもってくれる力に感謝して「afuhi」と名付けられたそう。初めての食材や味に出会えるafuhi uji。注目の中宇治エリアの町家イタリアンとして、ぜひ覚えておきたい一軒です。
afuhi uji
アフヒ ウジ
ご当地グルメの宇治茶漬けを、宇治川の絶景とともに味わう「茶房 櫟」
「宇治茶漬け膳」1900円(前日までの要予約)。濃厚なゆず味噌鍋には、爽やかな上玉真がよく合う
宇治の新たなご当地グルメ「宇治茶漬け」。地元の有志が協力し「もっと宇治らしくておいしいものを」との思いで誕生したメニューです。条件は宇治茶を使うことと、宇治茶に合う食材を使用することの2点のみ。宇治茶であれば、煎茶、玄米茶、ほうじ茶、抹茶など種類は問わず、今では約10店舗が個性的な味を生み出しています。その中の一軒、「茶房 櫟(くぬぎ)」を訪ねてみましょう。 茶房 櫟では、お茶漬けのご飯に、地元宇治の農家から直接仕入れた京都府プレミアム米を使用。抹茶の原料である碾茶をはらりとふりかけ、玉露の一種である上玉真(じょうぎょくじん)をかけていただきます。対し、鶏そぼろや生麩、九条ネギなどの京素材が味わえるゆず味噌鍋は濃いめの味付け。さっぱりしたお茶漬けとの相性がよく、お互いの持ち味を引き立てます。
(上)左の橋が朝霧橋。櫟はこの橋のすぐそば (左下)懐かしい雰囲気に包まれた日本家屋 (右下)1階のお座敷席。宇治川は目の前
また、茶房 櫟には味だけでなく、もうひとつ誇れるものがあります。それは、宇治川の絶景。お店は、朱色が美しい朝霧橋のすぐ近く。1階のお座敷席は、窓のすぐ下に宇治川が流れ、目の前には平等院のある対岸が広がる特等席です。 朝霧橋のすぐそばというロケーションで、風景もアクセスも抜群な茶房 櫟。昔ながらのお店で、まったりと畳に座って、ご当地メニューのお茶漬けや茶そば、抹茶スイーツでひと息ついてみませんか。
茶房 櫟
サボウ クヌギ
平安の都人たちが創り上げた、夢の世界が広がる宇治へ
朝霧橋そばの宇治十帖モニュメント。小舟に乗った匂の宮と浮舟が宇治川を渡るシーンを再現
『源氏物語』をめぐる宇治川さんぽはいかがでしたか?JR宇治駅からのスタートであれば、平等院→宇治上神社→宇治市源氏物語ミュージアム→お茶と宇治のまち交流館 茶づなの順でめぐるのがベスト。京阪宇治駅からは、その逆コースになります。 宇治橋を中心にコンパクトに見どころが集まり、宇治川東岸には「さわらびの道」、西岸には「あじろぎの道」というさんぽ道が整えられている宇治の町。途中にはお茶のおいしいお店が点在するさんぽ好きにはうってつけのエリアです。ぜひ、紫式部ゆかりの地を訪れてみてくださいね。
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戸塚江里子(らくたび) 撮影:小川康貴
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