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2025.07.05
京都の夏を楽しむ♪ 目にも爽やかな青もみじや、涼を呼ぶ京町家の夏のしつらえ
祇園祭や送り火など、楽しみごとにはことかかない京の夏。三方を山で囲まれた盆地のため暑いことで知られていますが、昔から京に暮らす人々は、涼やかに過ごす工夫をしてきました。この夏は、「京都のしつらえと新緑」をテーマにした「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンを利用して、青もみじや苔の美しい寺院、夏を迎える姿に衣替えした京町家を訪ねてみませんか。

青もみじと苔が響き合う嵯峨野の別天地「常寂光寺」

16世紀末に日禛(にっしん)上人が創建した日蓮宗の寺院
常寂光寺へは、JR嵯峨嵐山駅、または嵐電嵐山駅から徒歩で約20分。小倉山の中腹にたたずむ境内は、百人一首の歌を選んだ藤原定家が山荘を営んだ地と伝えられています。 青もみじに見え隠れする仁王門をくぐり、まずは本堂へお参りをしましょう。

本堂から多宝塔への小径は、竹と青もみじが織りなす緑一色の世界
本堂を後にし、さらに上へと進みます。「この先には何があるのかな」と思いながら、坂を上るのは山寺ならではの楽しみですね。しばらくすると現れるのが多宝塔。ヒノキの樹皮を幾層にも重ねた屋根が描く緩やかなカーブがなんとも優雅です。

江戸時代に、京都の町衆らが寄進した多宝塔

末吉坂は苔が美しい。雨の日は苔の緑が一層鮮やかに
多宝塔の上段には、藤原定家の山荘・時雨亭跡や、京都市内を見渡せる展望台があります。その後、仁王門の付近まで下りてきたら、そこが梅雨から夏にかけて一番の見どころ。じゅうたんのような苔と青もみじ、石段の先に見える仁王門の茅葺の屋根。そんな絵画のような風景に出会えます。
苔の美しい京都の6寺院がめぐれる「苔庭めぐりパスポート」はこちら
常寂光寺
ジョウジャッコウジ

京町家「重要文化財 杉本家住宅」で暑さを凌ぐ知恵を拝見

表屋造りという間口の広い京都市内最大級の町家(重要文化財)
杉本家住宅へは、地下鉄四条駅から徒歩4分。賑やかな四条通から1筋南の綾小路通に面しています。杉本家は「奈良屋」という屋号で呉服商を営む商家で、今の町家が建てられたのは1870(明和3)年、約150年前のことでした。

庭の緑も涼しさを演出してくれる
夏を迎えるにあたり、京町家で行われるのが建具替え。障子や襖を外し、葦戸(よしど)や葦簀(よしず)に取り替えます。 ちなみに、見るからに涼しそうな簾(すだれ)は、150年以上前の着物を仕立て直したもので、今も大切に使っているそう。庭に打ち水をすると室内を風が駆け抜け、ふわりと簾を揺らします。

大きな伽藍石や鞍馬石など、貴重な石を大胆に配した座敷庭
京町家の庭として、唯一、国の名勝に指定されている杉本家の庭園。座敷庭、坪庭、露地庭など、風情の異なる庭が、四季折々の姿で目を楽しませてくれます。木々のすき方にも、涼が感じられるようにとの工夫をされているそうです。

八畳の間の涼しげな葦戸。網代編みの座布団は座るとひんやり
7月に入ると、杉本家住宅は祇園祭の伯牙山のお飾り所となり屏風祭の舞台に。京町家の夏のしつらえと祇園祭が一度に楽しめるこの機会に訪れるのもよさそうですね。 ※写真は取材のため特別な許可を得て撮影をしています。
京町家「杉本家住宅」の一般見学プランはこちらから
杉本家住宅
スギモトケジュウタク

妙心寺塔頭「天球院」で、京狩野の襖絵を堪能

青もみじと季節の花に彩られた参道の先には、花の形をした花頭窓
「天球院」へは、嵐電妙心寺駅から徒歩で5分。妙心寺の北門を入ってすぐのところです。 寺の創建は、江戸時代初期、岡⼭藩主池田光政兄弟が、大伯⺟天久院のために建てたことにさかのぼります。寺名が「天球院」なのは、建立の際に地中から球が掘り出されたことにちなむのだとか。

やさしく優美な雰囲気が漂う「籬(まがき)に草花図」
方丈の壁を飾る障壁画は、狩野山楽・山雪の作品。徳川幕府の御用絵師として狩野派が江戸に本拠を移した後も、山楽は京に残り摂関家や大寺院の御用達として活躍しました。その152面にもおよぶ襖絵や杉戸絵を目にすることができます。 ふつう禅寺の襖絵というと水墨画であることが多いのですが、天球院は女性のために建てられた寺院であることを心にとめて、水墨画とともに華麗な金碧画が描かれたといわれています。

しっぽにじゃれつく虎の子が愛らしい「竹に虎図」
「天球院」方丈特別公開自由拝観はこちらから

書院の前庭。「そうだ 京都、行こう。」のポスターで見た人も多いはず
この夏は襖絵だけでなく、書院のお庭も拝観できます。苔と青もみじ、リズミカルに配されたまるい刈り込み。禅寺によくある石がメインの枯山水庭園ではなく、襖絵と同じく華やいだ優雅な印象です。 天球院には、襖絵のある方丈の拝観と、方丈にプラスしてお庭のある書院も拝観できる2つのプランがあります。申し込む際には注意してくださいね。 ※写真は取材のため特別な許可を得て撮影をしています。
「天球院」方丈・書院の特別公開はこちらから
妙心寺 天球院
ミョウシンジ テンキュウイン
青もみじや苔の緑を楽しみ、寺院や京町家のしつらいを目にすると、夏の暑さも楽しいものになるかもしれません。また、川風に吹かれて食事を楽しむ「鴨川納涼床」や、貴船の「川床」も体験したい夏の風物詩です。この夏は、ぜひ、涼を呼ぶ京都の知恵をおみやげに持って帰ってくださいね。
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文:戸塚江里子(らくたび)
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