惚れ込んで惚れ抜いた近江牛の美味しさを伝えるため、全身全霊をかけて肉を焼く。[le 14e/京都府京都市] by ONESTORY
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惚れ込んで惚れ抜いた近江牛の美味しさを伝えるため、全身全霊をかけて肉を焼く。[le 14e/京都府京都市] by ONESTORY

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から京都府京都市の「le 14e」を紹介します。

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今でこそ、「肉ビストロ」といったジャンルが確立されつつありますが、数年前までは、「肉」に執着したビストロは東京にもほとんど存在しませんでした。ところが2010年頃から、「六本木にやたらと旨い肉を食わせる店がある」と、口コミで評判の店が現れました。その名は『祥瑞(しょんずい)』。 ナチュラルワイン業界で「ドン」と呼ばれる、勝山晋作氏が営むビストロです。当時すでに、ワイン愛好家の間で『祥瑞(しょんずい)』の名は知られていましたが、「肉ビストロ」としての存在を際立たせたのは、2009年末にシェフに就任した茂野 眞氏でした。現在の『le 14e(ル・キャトーズィエム)』オーナーシェフです。茂野氏は当時、赤身肉とはこれほどまでに旨いのかと思わせるステーキを焼く人でした。噛みしめる悦び、霜降りなどの脂に頼らない牛本来の肉の味。現在も続く赤身肉ブームは、この人の肉焼きが発端だったと言っても過言ではないかもしれません。

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河原町通りに面した、半円形のくり抜き窓が印象的な店内。壁の塗装は自ら施し、ランプや椅子はパリ修業時代に集めた茂野氏のコレクション

ところが、2013年に自身で京都・河原町丸太町にオープンさせた『le 14e(ル・キャトーズィエム)』では、それまでと何やら様子が違う肉焼きを見せているといいます。その理由は、「いまだかつて味わったことのないほど、美味しい肉に出合ってしまったから」と茂野氏。 京都へ赴き出会った肉、そしてその肉を取り巻く人たちにより、茂野氏の人生は一変しました。変わらないのは、今も昔も飾り気のない、シンプルすぎるほど純粋に料理を作るその姿勢。わずか10席ほどの小さな『le 14e(ル・キャトーズィエム)』は、連日連夜、ただひたすらにステーキを食べに来る人々で埋め尽くされているのです。

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過去の経験をゼロに戻されるような恐ろしい肉

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肉の表面をキャラメリゼするように焼き、赤身全体に行き渡るように脂を閉じ込める。こちらはリブロース。「喉越し」と表現したくなるような味わいだ

『le 14e(ル・キャトーズィエム)』で供される料理は、ステーキの他はごくわずか。サラダ、チーズ、それ以外は2、3品の「ステーキ以外の肉料理」がある程度です。なんとも直球な「肉ビストロ」、迷いがありません。しかしその真の理由は、迷いがないからではなく、「肉を焼くことで一杯いっぱいだから」と茂野眞氏は言います。 かつての六本木『祥瑞(しょんずい)』時代は、肉はもちろんですが、魚や野菜料理、ケークサレなども人気メニューでした。華美な所がいっさいないのはどの料理も同じですが、肉にしか興味がないわけではないのです。けれど、今は肉だけ。

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焼く前の準備として、肉のカットも重要と語る茂野氏。同じ部位でも肉質は様々なため、焼き方もその都度見極めている

「全ては、『木下牛』に出合ったからです。京都に来て、知り合いもほとんどいない環境の中で、じわじわと店のイメージを膨らませていきましたが、牛のステーキのみにするつもりはなかったんです。けれど、滋賀の『木下牧場』の『木下牛』を初めて食べて、驚いた。地味で素朴で、美味しさがすぐにガツンとくるような肉とは全く違ったんです。帰り道で、『あれはいったい何だったんだろう』と思い返し始めたら、頭の中が『木下牛』のことでいっぱいになってしまった」と茂野氏は話します。          かねてより肉に対峙してきた茂野氏だけに、困惑することはないと思いきや、全く今までのようにはいかなかったというのです。何より、美味しく焼けない。そこから、茂野氏の『木下牛』研究が始まります。

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人ひとり立つのが精いっぱいの狭い厨房で、肉との真剣勝負が繰り広げられる

『木下牛』とは、滋賀県・近江八幡で木下一家が育てる近江牛のこと。けれどそれは、三大和牛&最高級A5ランクといういわゆる近江牛のイメージとはかけ離れた、霜降りやサシを追い求めない肉でした。「だからといって赤身の強い肉ということではありません。どちらかというと、赤身の中に脂が溶け込んでいる感じ。しかもその脂の融点がかなり低いので、常温で置いていると肉の形状が変わってしまうほど。なのでワンチャンスを逃したら、一瞬で火が入りすぎてしまうんです。ものすごく集中して焼かないと失敗してしまう、恐ろしい肉です」と茂野氏は話してくれました。 そのため、『le 14e(ル・キャトーズィエム)』はステーキ直球勝負のみとなったのです。

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肉を捌くことで手から伝わる牛の情報が、何よりの成功のヒント

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多めの油で揚げ焼きのように一瞬で肉の表面に火を入れ、最終的にはその表面に完全に油を残さないように焼く。「天ぷらのそれに近いかもしれないですね」と茂野

茂野氏の「焼き」の前の準備は、ただ肉を部位ごとにカットするだけではありません。彼は枝肉の状態から自分で肉を捌くことを、とても重要視しています。この牛は生きていた時はどんな躯で、どんなものを食べ、どんな風に育ってきたのか。解体から携わることで、手がそれらの情報を感じ取るのだとか。それがどれほど大切なことかを、修業時代のフランスのビストロ、『ル・セヴェロ』のシェフのウィリアム・ベルネ氏から教わったといいます。 『ル・セヴェロ』は、まさにパリの肉好きなら知らぬ者なしのステーキの名店。当初は別の店で働いていた茂野氏でしたが、ある日訪れたその店で、肉の美味しさに開眼。思わず、なぜこんなに美味しいのかと、店の人にたずねたのだとか。

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肉を焼く時の戦闘態勢に欠かせない、油ハネ防止用のダテ眼鏡を着用

「美味しくてびっくりしましたね。そもそも僕はあまりお肉が好きじゃなかったので、本当に驚きました。秘訣を聞いたら、明日の晩にもう一度来いと言われたので、てっきり焼き方を教えてくれるものと思ったら、連れて行かれたその場所は『ル・セヴェロ』の肉の解体場だったんです」と茂野氏は言います。 そこから2年間、ひたすら「捌き」を勉強することに。焼くことにばかりに興味を持っていた茂野氏は、その意図が当時はわからなかったといいますが、ここにきてようやく、その大切さがわかるようになってきたとか。

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瑞々しい肉質に、軽やかな脂が溶け出している。大げさではなく、「飲める肉」と痛感するほどの仕上がりに脱帽する

今、茂野氏が心血を注いでいる『木下牛』は、赤身の中に脂が溶け込んでいるので、表面にキャラメルを一瞬で作ってしまわないと、中まですぐに火が入ってしまいます。そのために茂野氏は肉の厚さやカットの仕方を考え抜き、焼く時も肉に当てる火の温度を調節しながら、常にフライパンの位置や油をかけ回す場所を変えています。しかしそれは最終地点。それまでの道程は、解体の時点から始まっているのだといいます。「焼くまでのイメージを、骨についている肉の状態から掴むこと。その“逆算のイメージ”が、とても大事なんです」と茂野氏は話します。

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シェフの人柄そのものを表すような、素朴でじわじわくる味わい

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美味しいってこういうこと、としみじみ感じる味わいの『ストラッキーノチーズとトマト』

繊細に、慎重に、真剣勝負で焼かれた『le 14e(ル・キャトーズィエム)』のステーキは、実に軽い食後感で知られています。たとえそれがサーロインステーキであってもなので、驚かずにはいられません。食べている間はその軽さにつられ、無意識に食べ進んでしまうというのが正直なところ。ひと切れひと切れ、爆発的な旨味が押し寄せてくるわけではないのです。 「それが『木下牛』の特長でもあり魅力ですね。派手な所がなく、地味なんだけれど、食べ終えた後に訪れる余韻が長いんです。僕はワインもそういう味わいのものが好きです。ひと口目で美味しい!と感じるような強いものではなく、じんわりじっくり、食事の最初から最後まで通せるような味わい。素朴で地味でじわじわくるって、カッコいいじゃないですか」と茂野氏は話します。

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すね肉を煮込んで煮こごり状になったものを固めて焼いた『牛肉のかりかり焼き』。添えられている茂野氏特製ピクルスにも、ファンが多い

数少ないステーキ以外の料理にも、同様の味わいがあります。『ストラッキーノチーズとトマト』のひと皿は、チーズとトマトを切ってのせただけのはずなのに、絶妙な塩気と旨味のバランスで、涙が出るような美味しさがあります。『牛肉のかりかり焼き』は、ステーキ肉を除いた後のすね肉を使ったひと皿で、味つけは塩と煮込む時に入れる白ワインのみ。けれど、染み入るような優しく深い味わいは、『木下牛』そのものの旨味を伝えています。

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茂野氏は、『吉田パン工房』のパンはフランスのそれ以上と絶賛

お店で扱っている『吉田パン工房』のパンも然り。それ自体確かに美味しいけれど、美味しすぎないのです。パンがパンであるという存在を飛び越えていない、真っ当な美味しさなのです。要するに、ここで供される味わいは、茂野氏の人柄そのものなのだと、話をしながら、そして料理を食べながら感じ入ってしまいます。その余韻の長さは、茂野氏がゲストにもたらす優しさそのもの。『le 14e(ル・キャトーズィエム)』の味を思い出す時にはすでに、茂野氏のその笑顔に会いたくなっているのです。

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