
66
2023.03.31
雷門通りにある老舗そば店「尾張屋」。文豪にも愛された名店のそばを粋にいただきましょう
創業は幕末の1860(万延元・安政7)年。160年以上そば店を続けてきた「尾張屋」は、かつて、文豪・永井荷風が毎日通ったというエピソードもある名店です。おすすめは大きなえびの天ぷらがのった「天ぷらそば」や、風味豊かなつゆとそばがよく合う「鴨せいろ」。老舗ならではの店内も楽しみながら、威勢よくズズッとそばをいただきましょう。
幕末に創業した、数々の著名人御用達の老舗そば店

浅草駅から行くと、雷門の少し先の通り沿いに本店がある
飲食店やおみやげ店が立ち並ぶ浅草の雷門通り。新しいお店と昔からある老舗がバランスよく並んでいて、浅草に活気を与えています。 「尾張屋」は、そんな雷門通り沿いにある老舗のそば店。創業はなんと幕末の1860(万延元・安政7)年です。 創業当初は近くの別の場所で営業していましたが、3代目の時に東京大空襲で焼け出され、そのあと、現在の場所にお店を移転、営業を再開したそうです。 現在は、5代目がお店を切り盛りしていて、次期6代目も一緒にお店を盛り立てています。

テーブル席が並ぶ1階。2階には小上がり席もある
そばとつゆのバランスが抜群

鴨のだしがうまみを引き出す「鴨せいろ」1700円
尾張屋で人気なのが、鴨肉が入ったつゆに、そばをつけて食べる「鴨せいろ」。つゆは、ごま油で炒めた鴨のもも肉と千住ねぎが入って風味豊かで、そばにからんで、とても相性がいいです。 そばは、墨田区の製麺所で挽いてもらっているオリジナルのもので、そばの産地は固定せず、時期によっておいしい旬のものを使うようにしているとのこと。

大きなえびでビジュアルにも圧倒される「天ぷらそば」1700円
また、王道の「天ぷらそば」もおすすめです。丼からはみ出すほど大きなえびの天ぷらが2尾、ドーンとのっていて、かなりなインパクト。 つゆは、地元の関東の人にも、薄味が主流の関西の人にもなじむバランスを見極め、かつおだしで1時間以上かけて作っているそう。辛すぎず、だしが効いた品のある味わいです。
写真嫌いだという文豪・永井荷風の貴重な写真も

エピソードどおり、仏頂面をした永井荷風の写真
さすが、歴史がある老舗だけあって、著名人もたくさん来ています。 毎日のようにほぼ同時刻に来店したという作家の永井荷風。お店側も心得ていて、その時間になると、いつもの席を空けておいたそうです。 でも、店内に飾られた永井荷風の写真は、大好きなそばを食べているのに、なぜかムスッとした表情。なんと、居合わせたファンが、写真嫌いの荷風を撮影して、後日お店に写真をくれたというお話を聞きました。 今では許されないような行為ですが、大正末期~昭和初期ならではのエピソードですね。 創業年数を考えると、これまでどんなにたくさんの著名人が、このお店を訪れたことでしょうか。ちなみに、本店には落語家さんが、支店には歌舞伎役者さんが、今もよく来店されるそうです。
店内を飾る老舗ならではの品々

浅草寺の鎹山(かすがいやま)の紋も入った看板
ほかにも、店内のあちらこちらに、気になるものが飾られています。 2階の小上がりの壁には、「浅草寺御用」と書かれた木の看板がかかっています。これは、毎月18日の観音様の縁日に、浅草寺に出前をしているからだそう。 本来、出前はしていないのですが、昔からの浅草寺とのご縁で今も変わらず続けているとのことです。

「浅草うまいもの会」には名店の名前がずらり
別の壁には「浅草うまいもの会」の手ぬぐいも飾られています。「浅草うまいもの会」とは、“味を守り、味を誇る、おいしいお店”が集まっていて、新たに入ることはできない会だそうです。 残念ながら閉店してしまったお店もありますが、さすが、浅草の食文化の担い手が勢ぞろいしています。 また、力士の手形にも目を引かれます。これは、日本人の4横綱が現役でそろっていた時期の貴重な手形だそうで、「尾張屋」の文字も入っています。

千代の富士・大乃国・北勝海・旭富士の4横綱の手形
そんな貴重な品々を見られるのも、老舗ならでは。尾張屋が江戸時代から重ねてきた歴史を感じながら、そばをゆっくり楽しみましょう。

尾張屋(本店)
オワリヤ(ホンテン)
※掲載の内容は、記事公開時点のものです。変更される場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
※画像・文章の無断転載、改変などはご遠慮ください。
いちきドーナツ 市来恭子 撮影:依田佳子
Writer
いちきドーナツ 市来恭子

東京在住のフリー編集兼ライター。尾道観光大使・群馬県文化審議会委員。すてきな情報をお届け♪
の人気記事












































