お釈迦さまを偲ぶ法要で登場する「涅槃図」

仏教用語の「涅槃（ねはん）」とは、苦しみから解き放たれた安らぎの“悟りの境地”を意味し、具体的に“死”そのものも“涅槃”とされ、とくに仏教を開いたお釈迦さまの死を「涅槃」と表すことがあります。 お釈迦さまは現在の暦で3月15日が命日とされ、全国の仏教寺院でお釈迦さまを偲ぶ法要「涅槃会（ねはんえ）」が行われ、お堂の中にはお釈迦さまが死を迎えた様子を描いた絵図「涅槃図（ねはんず）」が掲げられ、お釈迦さまの遺徳を偲びます。（メイン画像：東福寺・涅槃図）

満月の夜、弟子は嘆き悲しみ、沙羅の木は枯れ果てる･･･

東福寺・涅槃図（一部拡大）

お釈迦さまを偲ぶ涅槃会で掲げられる「涅槃図」には、多くの弟子や動物たちが集まり、お釈迦さまを囲んでその死を嘆き悲しむ様子が描かれています。 一般的な涅槃図には、お釈迦さまが横になった寝床の四隅には沙羅双樹が描かれ、白い花を咲かせてお釈迦さまの亡骸を飾り、木は悲しみのあまり枯れ果てたと伝えられています。また、お釈迦さまの命日は3月15日（旧暦2月15日）とされていることから、絵の上部には満月（十五夜）が描かれています。 さらに、お釈迦さまの母・摩耶夫人（まやぶにん）は天の世界から愛するわが子の病気を治すために薬が入った袋を投げましたが、その薬は木に引っ掛かって届かなかったと伝えられ、お釈迦さまの頭上の木に引っ掛かった薬袋も描かれています。これは、お釈迦さまを含め、どんな人も“死”というものから逃れることはできないという、仏教の深い教えが込められたもので、医者が患者を想って薬を与える“投薬”の由来とされています。

京都ならでは、日本最大と日本最多の涅槃図へ

日本最大の涅槃図が掲げられる泉涌寺の仏殿

天皇家の菩提寺でもある泉涌寺で見ることができる涅槃図は、もとは奈良・東大寺の大仏殿に掲げるために描かれた縦16m×横8mという日本最大の涅槃図で、あまりの大きさから泉涌寺の仏殿の壁に掛からず、堂内の天井から地面にかけて「コ」の字型に折り曲げて公開されるという、大迫力の涅槃図です。 また、銀閣寺の近く、神楽岡にある真如堂では、近年修復を終えた極彩色の涅槃図が3月末まで公開され、その中に描かれている動物はなんと日本最多の127種類を数えるといい、見どころあふれる涅槃図です。 ○泉涌寺（せんにゅうじ） [所] 東山区泉涌寺山内町27 [TEL] 075-561-1551 [URL] http://www.mitera.org/ 「涅槃会」3月14日～16日 9:00～16:30、500円 ○真如堂（しんにょどう） [所] 京都市左京区浄土寺真如町82 [TEL] 075-771-0915 [URL] http://shin-nyo-do.jp/ 「大涅槃図・特別公開」3月1日～31日 9:00～16:00（受付～15:45）、600円（あられ付）

珍しい猫や、美しいコリー犬が登場する涅槃図も

東福寺・猫入り涅槃図（一部拡大）

涅槃図の中でもちょっと珍しいものとしては、まずは京阪・東福寺駅から徒歩10分、東福寺で3月14日から16日にかけて公開される涅槃図です。縦12m×横6mの大きさを誇り、本来は描かない習わしの動物“猫”が描かれていることから特に「猫入り涅槃図」と呼ばれています。これは室町時代、画家の明兆（みんちょう）が涅槃図を描いていると、一匹の猫がどこからともなく現れて絵具を運んで見事な絵が完成したことから、そのお礼として“猫”の姿を猫いたものと伝えられています。 また、西陣の本法寺が所蔵する涅槃図は、安土桃山時代に活躍した絵師・長谷川等伯が描いたもので、こちらも縦10m×横6mという大きな涅槃図で、下の方に描かれている“犬”をよく見てみると、それは明らかに外国産の毛並みが美しいコリー犬なのです。大坂・堺の港町で南蛮人が連れて歩くコリー犬を等伯が見て、その姿を涅槃図に描いたのではないかと考えられ、興味深い歴史を秘めています。 一年のうちで3月中旬のみ見ることができる涅槃図。ぜひ早春の京都を歩きながら、巨大な、個性的な、歴史を秘めた涅槃図を仰ぎ見てお釈迦さまを偲んでみましょう。 ○東福寺 [所] 東山区本町15丁目778 [TEL] 075-561-0087 [URL] http://www.tofukuji.jp/ 「涅槃会」3月14日～16日 9:00～15:30 （最終日は15時）涅槃図公開は無料 ○本法寺（ほんぽうじ） [所] 京都市上京区小川通寺ノ内上ル本法寺前町617 [TEL] 075-441-7997 [URL] http://eishouzan.honpouji.nichiren-shu.jp/index.htm 「春季特別寺宝展」3月15日～4月15日 10:00～16:00、1000円、寺の行事のある時は拝観休止