平安時代、小野篁が刻んだ6体の地蔵に由来します

それぞれの寺院でお幡の授与があります。赤・青・黄・緑・白とカラフルです。

六地蔵は、平安初期の政治家、学者、また歌人としても知られている小野篁（たかむら）によって刻まれたと伝わる地蔵尊です。篁が熱病にかかって仮死状態となり、地獄の世界へと至ったとき、地獄で苦しむ罪人たちを救う、ひとりの僧に出会います。僧は、自分は地蔵菩薩であり、より多くの人びとを救えるよう自らの姿を刻んでほしいと篁に頼み、篁を生き返らせてくれました。蘇生した篁は約束を守り、1本の大きな桜の木から6体の地蔵の姿を刻むと、伏見の地（現在の六地蔵あたり）に安置したそうです。 時を経た平安末期、後白河天皇の時代に都に疫病が流行ったとき、天皇は疫病退散を願い、平清盛に命じて都へ通じる街道の入口6カ所に六角堂を建てると、それぞれに伏見に祀られていた地蔵尊を移して安置しました。 室町時代ころから、6体の地蔵を巡拝し家内安全、無病息災を祈願する「六地蔵まいり」の風習がはじまりました。現在は8月22日・23日の2日間で行われ、参拝者は、「お幡（はた）」と呼ばれる札（一カ所300円）を授かり、これを6カ所で集めて、家の玄関先に吊るしておくと、家内安全、無病息災、家運繁栄のご利益が授かれるとされています。

地下鉄沿線に祀られる「大善寺」「徳林庵」「上善寺」へ

大善寺境内の地蔵堂。六地蔵はいずれも六角形のお堂に安置されています。

六地蔵はそれぞれが離れた場所に位置しています。どの順番で巡ってもよいものの、効率よく巡るには、あらかじめ交通手段を調べておくとよいでしょう。六地蔵のうち3カ所は地下鉄沿線にあり、一日乗車券（600円）などを購入して移動をするのがおすすめです。 まずは、地下鉄東西線・六地蔵駅から西へ徒歩10分ほど歩いた場所にある「大善寺（伏見六地蔵）」へ。小野篁が最初に6体の地蔵を安置した場所に建つ寺として親しまれ「六地蔵」はこのあたりの地名にもなっています。地蔵尊は六角形のお堂の中に安置され、綺麗な姿で迎えてくれます。 続いて、地下鉄東西線・山科駅から西へ徒歩5分ほどの場所にある「徳林庵（山科地蔵）」へ。旧東海道にあたる三条通に面して人通りが多く、露店も立ち並んで賑わいをみせます。かつては東海道を行き来する旅人の守護仏としても信仰を集めてきました。 山科駅から再び地下鉄を利用し、烏丸線の鞍馬口駅で下車、鞍馬口通を東へ10分ほど歩くと「上善寺（鞍馬口地蔵）」があります。普段は静かな境内ですが、六地蔵めぐりの時には大勢の参拝者が訪れます。

歴史と伝説が残る「源光寺」「地蔵寺」「浄禅寺」

源光寺の地蔵尊。地元の方により大切に守り伝えられてきました。

残りの3カ寺もそれぞれ個性的です。嵐電・常盤駅から南へ徒歩約5分の場所にある「源光寺（常盤地蔵）」は牛若丸（源義経）の母・常盤御前ゆかりの寺院です。地蔵尊の参拝後は境内に建つ常盤御前の墓へも足を運んでみてください。 「地蔵寺（桂地蔵）」は、阪急・桂駅から東へ徒歩10分ほどに位置しています。こちらの地蔵尊は篁が木材の根元、一番太い部分を使って刻んだと伝わり、六地蔵なかでももっとも大きいものです。 下鳥羽の「浄禅寺（鳥羽地蔵）」は京都市バス18系統を利用し、バス停・地蔵前で下車し訪問するのが便利です。境内では地蔵尊に加え、平安時代の貴重な十一面観音像を拝することもできます。こちらの寺院は別名「恋塚浄禅寺」と称され、平安末期、鳥羽離宮に仕える北面の武士・遠藤盛遠（もりとお）が、人妻であった袈裟御前に恋をし、ついには御前を我がものとするため、寝ていると夫を殺そうと手にかけたところ、実は夫の身代わりとなった袈裟御前を殺めてしまったという、悲しい物語が伝わっています。境内には袈裟御前の首を埋めたとされる塚の上に供養塔が立ち、夫への愛を貫いた袈裟御前を偲ぶことができます。 ○六地蔵めぐり（ろくじぞうめぐり）　 [日時]8月22日・23日　※各社寺によって参拝時間・拝観時間は異なります。 [所] ・大善寺（伏見六地蔵）／伏見区桃山町西町24 ・徳林庵（山科地蔵）／山科区四ノ宮泉水町16 ・上善寺（鞍馬口地蔵）／北区上善寺門前町 ・源光寺（常盤地蔵）／右京区常盤馬塚町1 ・地蔵寺（桂地蔵）／右京区桂春日町9 ・浄禅寺（鳥羽地蔵）／南区上鳥羽岩ノ本町93 [拝観料]参拝自由、お幡1カ所300円 平安時代以来の由緒を持つ「六地蔵めぐり」は京都の地元に根付いた信仰の行事であると同時に、一般の方でも参拝をすることができる京の晩夏の風物詩です。ご利益を求めながら、より深い京都の世界を体感してみませんか。

浄禅寺に伝わる袈裟御前の供養塔