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2014.09.26
淡路島・島の小さなお祭り、食の即興音楽を聴く一日
年に一度、淡路島の五色町鳥飼浦にある築100年の古民家、gallery+cafe樂久登窯で行われる「ノープランパーティー」。今年で4回目を迎え、淡路島の夏の終わりの定番イベントとなりつつあるそうです。今回は、そんな小さなお祭りを覗いてきました。
毛を剃られ、ピンク色の肌をさらした大きな猪のまわりに100個もの卵白を溶いた塩を固めていくシェフ。毎年一度、淡路島の五色町鳥飼浦にある築100年の古民家、gallery+cafe樂久登窯で行われる「ノープランパーティー」は、今年は“塩”がテーマ。そこで、中国料理「香港ガーデン」のシェフ、新阜(におか)さんは、島で捕れた野生の猪の塩釜焼きに初挑戦しました。野外に設置された窯に総量60kgもある塩包みの猪を入れるために板を準備するスタッフ、それを遠目から見守る猪を仕留めた猟師。島の野山を駆け回っていた猪の最期を、これまた島の海水からとれた塩を使い、中国料理のレストランを営む料理人が丁寧に手を施し、今夜の祭りのごちそうとして島の人間たちにふるまいます。 仕込みは当日の朝だけでなく、半年前から窯の調整や椅子、テーブル、音響、食器などゲスト200人くらいを想定した内容で進められており、人手はボランティアでまかなわれています。1週間前からは仲間が毎日のようにきて窯の修繕が行われていました。 おもに、淡路島のシェフや生産者、デザイナーなど衣食住にかかわる人たちで構成されたグループ「美観味(さんみ)」を中心に、メンバーは各自、淡路島の食材を使って思い思いの料理を作り、ゲストにふるまいます。この日は、年に一度のお祭りのような日になるから、ノープランパーティーのサブタイトルは、「島の小さなお祭り」。以前、淡路島を訪れたときにこのパーティーの話を聞き、いつかこのイベントに参加したいと心待ちにしていたのでした。
パーティーに使われる食器は、「樂久登窯」の主人、陶工の西村さんがこの日のために焼いたもの。ゴミを出さないようにすることはもちろん、島でとれた土を使って焼いたお皿で島の食材に感謝していただこう、という意気込みの現れでもありました。また、祭りに貢献しようと毎年薪割りや火のまわりを自主的に担当している西岡さんは会社の夏休みを返上。以前、西村さんが器を焼くために作ったトーマス窯で、今回は猪を焼くべく数日前から修繕に励んでいました。女性陣はおにぎり部隊となり、200個以上の塩にぎりを握っていきます。熱々のごはんが炊きあがっては握り、新たに炊いては握り、を繰り返す大変な作業。でも、わいわいおしゃべりをしながら楽しく進めます。私も、買ったばかりの「島のふく」を着て、島の人になりきった気分でお手伝いをしてみました。
「1年のなかでみんなが心待ちにするイベントです。プロの料理人たちが料理を作ることを真剣に遊ぶ、それが楽しいんですよ」と民宿「南海荘」ご主人の竹中さん。竹中さんは、もともとはイタリアンのシェフ。今回のお題となった塩のとれる浜へ出かけ、そこに生えていた自生のミントを摘んで料理に使うことにしました。そのほか14名のシェフ、パティシエ、パン職人が続々と材料や下準備を終えた食材を持ち込み、なかには「14時に会場に着いてから、限られた調味料とそこに用意してある材料で何か作る」という強者も! フラワーアーティストが野山の花を集めて西村さんの焼いた塩つぼに飾り付けています。会場の盛り上がりは夕方に向けて高まるばかり。 合図のように音楽が流れ、18時から宴はスタート。 次々に出来上がっていく料理に、どれから並んでお皿にとればよいか混乱してしまうほど。実は、200人以上の参加者は半分以上が関係者やその家族たち。身内からはお金はとらないのがノープランパーティー。採算度外視、まさに自分や家族のための島の恵みに感謝する一日なのです。
宿の目の前の浜でとれるボウゼ(イボダイ)などの魚とミントを自家製バゲットの上に乗せた竹中さんの前菜をつまみながら、ワインをひとくち。新鮮なボウゼと香ばしいバゲッド、ミントのさわやかさが残暑の夜にぴったり!飲み物はバー「スピカローズ」を営む奈良さんが準備。塩と地酒の都美人、柚子を使ったオリジナルカクテル「伊弉諾の涙」がふるまわれ、ドリンクバーの前には行列ができていました。さあ、猪も窯に入って5時間ほど経ちました。 みんなが見守るなか、シェフが猪をひきあげます。ちょっと炭のようなにおいがすると思ってみてみると、なんと猪の半分は既に炭化していました。 「島の大切な生き物を、美味しく感謝していただこうという会なのに、無駄にしてしまい申し訳ありません」 新阜さんは、マイクを持ち、皆に謝りました。どうしてこうなったのか…猪の脂分なのか、塩をしっかりと固められなかったのか、などいろいろ考察の余地があるといいながら、悔し涙をこらえています。初めて挑戦するという猪の塩釜は、塩も含めて60㎏にもなるのだから、いくらプロの料理人でも成功するか否か予想もつかないところをよくやったと皆がねぎらいます。
こんな一日を私は眺めていましたが、私の感じている淡路島の「今」の空気は、パーティーに凝縮されているような気がしました。参加者それぞれが専門分野で切磋琢磨し、集まったときには自分の出せる最高のものを惜しみなく出し、大変な人がいたら空いた人が自然と手伝う。厳しい修行を経たシェフ同士がジャンルを超えて同じまな板を使って同じ料理を完成させている姿は、ふだんは滅多に見られないシーンなのではないでしょうか。 「イベントも4回目となれば、今では会場さえあればみんながそれぞれのように動くから何も心配なくパーティーが進んでいきますね」と、イベントを始めるきっかけとなり、初回は幹事のように動いていた西村さん。100年の古民家を舞台に始まったパーティーは4回目を迎え、淡路島の夏の終わりの定番イベントとなったようです。 次回は、このパーティーのテーマとなった大切な塩「自凝雫塩(おのころしずくじお)」と花を生けるのに大活躍していた樂久登窯の西村さんの「塩つぼ」についてご紹介します。上記の写真はパーティーの翌日、片付けをしていた西村さんの賄い昼ごはん。塩を手でちょちょっとつまんでおにぎりにふた振り、美味しそうに食べていました。では、お楽しみに。
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ノープランパーティー
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朝比奈千鶴 写真:美観味
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