淡路島・海のめぐみ、身体感覚をとりもどす食卓へ
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淡路島・海のめぐみ、身体感覚をとりもどす食卓へ

連載、「暮らしと旅と...」vol.3でご紹介した淡路島の夏のイベント「ノープランパーティー」。テーマとなったのは、島でとれた「塩」でした。魚や肉など淡路の素材とあわせて存分に使われ、大活躍をしていました。そして、その塩を入れるための道具、「塩つぼ」を初めて目にし、実際にそれらを持ち帰り、使ってみることにしました。

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島でとれた「自凝雫塩(おのころしずくじお)」のデザインは、真ん中にオタマジャクシのような、勾玉のような、不思議な黒いキャラクターが描かれています。聞けば、兵庫の日本酒、富久錦のデザインで知られるデザイナーの北川一成さんがデザインしたものだとか。 現存する最古の歴史書といわれる『古事記』の冒頭で出てくる、日本のはじまりの島、おのころ島が淡路島といわれていること、その島はイザナミとイザナギが一緒に大きな棒で海をかきまわした際、持ち上げたときにたれた雫でできたものだったことをひっかけた意味深い商品のデザイン、ネーミング。以前、島のお土産として持ち帰り、いろんな料理に使っていました。その塩がテーマとあって、「暮らしと旅と…」vol1でご紹介した「ノープランパーティー」には絶対に参加したかったのです。 この塩を作っているのは、「脱サラファクトリー」の有吉英則さんと末澤輝之さん。ふたりはともに神戸市出身で学生時代に出会った友人同士。サラリーマン時代に体調を崩した有吉さんは、心身の健康を見直すために「食」に関心を持ち、無農薬無肥料の農業を学びながら塩づくりを考えるようになりました。片や、末澤さんも長年外食産業に勤務し、いつか独立しようと考えているなかでアトピーや糖尿病など、食事制限のあるお客様と現場で多く接し、食材に大変興味を持っていたといいます。 「健康でおいしい物を食べ続けるには“知識”が必要になってくるなと思いました。そこでふたりで会ったときに話あい、純国産の塩がまだまだ少ない現状なども知り、ではふたりの育った関西で塩づくりをして起業しようと決めたのです。その後、大分の製塩所にふたりで修行にでかけました」と末澤さん。

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五色浜に建てた塩小屋は、地元の大工さんたちと一緒に手づくりしています。訪ねてみると、煮詰めた海水から不純物を何度も細かい網でこす有吉さんの姿が見えました。汗を何度もふきながら作業をする有吉さんは、塩づくりを始めて2年にもかかわらず、パッケージに印刷されている顔写真に比べてずいぶんと職人らしい顔つきに変身しています。 自凝雫塩は、海から海水をひいて鉄釜で40時間煮立てます。3つあるうちのひとつの釜で1日3~40kgくらいできるでしょうか。その後、杉樽に入れて20時間ほど熟成させます。 塩田のように海水を天日干しにして塩分濃度を濃くしないと煮詰めるのに時間もコストもかかるのでは?と聞くと、 「ここでは、逆浸透膜という海水と真水をわける機械を導入しています。塩分濃度を濃くした“かん水”を炊き上げるのです。真水のほうは洗い物などに使用しますし、余分なにがりも他のものに利用できるので、ほぼ捨てるところはない思いますね」。 ふたりでできることを考え、このやり方になったのだそうです。また、今ではステンレスが使われることの多くなった釜を、古くから日本の塩づくりで使われていた鉄のものを使い、薪をくべているので一年中、汗だらけです。

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島国日本では、古くから海水から塩をとり、それを食品の保存や発酵食品などに使い、暮らしに取り入れてきました。1997年に塩の専売法が廃止された後、現在では海外の塩を輸入したり、いろんな製法の塩が売られていますが、彼らは日本らしい塩を作りたい、ということで海塩を作るのに環境のいい淡路島を選びました。 「自分たちのからだの中には海があります」と海の恵みと共存していくことを決めたふたり。彼らの作る塩は、苦みのなかに少し甘みを残した素朴な味わいで、一口舐めると、うま味が口一杯に広がります。味の決め手はにがりをどのくらいまで残すか。塩を熟成している最中の杉樽の動かし方も影響してきます。まさに塩梅をはかっていくことが職人に求められています。私はこのうま味いっぱいの塩を手に入れてから、おにぎりを作ることが多くなりました。時間が経つと、これがまた甘じょっぱくておいしいのなんの。

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自凝雫塩を作る背景に魅了された、同じ五色町にある樂久登窯の陶工、西村さんはノープランパーティーの前は毎年大忙し。今年は当日に皆が使ううつわのほか、大小の塩つぼをたくさん焼きました。私は何度か窯を訪れていますが、その度に西村さんはある日は猪の駆除に関わり、捕獲した猪を美味しくいただくにはどうしたらよいかと考え、肉皿や鍋を作り、田んぼを始めたかと思うと米を炊く為の土鍋を発表し、野菜がとれたらこれまた漬物つぼを…と、とうとう日本ミツバチやマムシにまで手を出し始め、お会いする度にいつも驚かされます。 「陶工の仕事は身の回りにある素材をしつらえるために何ができるかということです。以前はシェフと話すなかで発見やひらめきを求めていましたが、だんだん、暮らしの道具としてどんな風に暮らしに使われるのかと考えるようになり、それはやはり生産や漁の現場を見て、そして自分もそうやって風土に沿って暮らしていくのだと思いました」 そんな西村さんのことですから、当然、塩づくりも見学し、自らの暮らしと塩の関係性を眺めて塩つぼを作ることを思いつきました。 「昔の塩つぼは蓋がありません。こうやって一回膨らんでしぼんでいる形なんです。ここに指を入れてつまんでパパッとかけていく。今やってみると退化した身体感覚が目覚めて行くような気がするんです」 と手をつかってパラパラとおにぎりに振りかける仕草を見て、これは面白そうだから買って帰って使ってみようと思いました。 自凝雫塩をざざざっと袋から塩つぼに移して台所に置いてみると、これまでに存在していなかった料理の道具が片隅で主張を始めました。島でとれる火山灰釉をかけた茶色の塩つぼにいつの間にかタイのセラドン焼きの小皿が蓋となって使われるようになり、道具とはこんな風に必要に応じて見つけたり、使っていくものなんだなあとしみじみ実感してみたりして。

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塩つぼを使い続けてから1か月、ガス台のまわりや食卓へといつも塩つぼが移動していることがわかり、西村さんの言っていたこんな言葉を思い出しました。 「道具としてのうつわをつくることは、しおりの語源となった枝折り(えおり)をしていくことのような気がしますね。この時代に、ここにコレがあって必要だからコレを作ったということ。うつわづくりは、時代がいつでも遡れるようにしおりを挿していく行為なのかもしれませんね」 ※自凝雫塩は、gallery+cafe樂久登窯や道の駅うずしお、福良マルシェで購入できます。 [HP]http://hamashizuku.com/

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