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2025.04.05
世界から称賛される浮世絵師・葛飾北斎――彼が生まれた墨田エリアに立つ「すみだ北斎美術館」へ
巨大な荒波が印象的な通称「グレートウェーブ」で世界を驚嘆させた浮世絵師・葛飾北斎。「すみだ北斎美術館」は、彼が生まれ、人生の大半を過ごした現在の東京の墨田エリアにあります。あまりにも有名な「冨嶽三十六景」や、およそ100年ぶりにフランスから日本に里帰りした「隅田川両岸景色図巻」など、代表作をエピソードを交えて鑑賞しながら、北斎の生涯に触れてみませんか。(メイン画像撮影:尾鷲陽介)
「グレートウェーブ」で有名な浮世絵師・葛飾北斎と墨田エリア
『北斎を学ぶ部屋』で北斎の生涯に触れる
「常設展プラス」ではオリジナル作品も月替わりで展示
北斎の魅力を深掘りする企画展、特別展も充実
ショップには関連書籍から日常使いできるアイテムまで

「グレートウェーブ」で有名な浮世絵師・葛飾北斎と墨田エリア

『北斎を学ぶ部屋』で見られる、北斎が波の形状を見事にとらえた実物大高精細レプリカ「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」すみだ北斎美術館蔵
世界から注目される浮世絵師として、高い評価を受けている葛飾北斎。北斎は、1760(宝暦10)年に現在の墨田区亀沢付近である本所割下水(わりげすい)のあたりで生まれ、約90年の生涯のほとんどを墨田区内で過ごしながら、優れた作品を数多く残しました。

建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した妹島和世さんが設計(撮影:尾鷲陽介)
東京都・墨田区では、この郷土の偉大な浮世絵師・葛飾北斎を広く紹介するため、2016(平成28)年、ゆかりのエリアに「すみだ北斎美術館」をオープン。建築家・妹島和世さんによるスタイリッシュで個性的な外観が目を引きます。

『北斎を学ぶ部屋』にある「北斎のアトリエ」再現模型。現在の墨田区の榛馬場(はんのきばば)の家に住んでいた84歳頃の様子を再現
北斎や門人の作品や、北斎と墨田エリアとの関わりなどを紹介していて、国内だけでなく海外からもたくさんの北斎ファンが訪れる人気スポット。地元の産業や観光に寄与する地域活性化の役割も担っています。

『北斎を学ぶ部屋』で北斎の生涯に触れる

『北斎を学ぶ部屋』の全景
館内は、『北斎を学ぶ部屋』という実物大高精細レプリカを活用した展示スペース、「常設展プラス」というスペース、企画展示室からなり、時期によってテーマが替わる企画展、特別展が開催されます。 『北斎を学ぶ部屋』は7つのエリアに分かれていて、北斎の画業を代表作の実物大高精細レプリカで紹介し、エピソードに触れながら、北斎の生涯がたどれる構成。まず最初に出迎えてくれるのは、大絵馬に描かれた晩年期最大級の肉筆画「須佐之男命厄神退治之図(すさのおのみことやくじんたいじのず)(推定復元図)」です。地元の牛嶋神社に奉納されたものの、関東大震災で焼失した幻の大作で、最先端のデジタル技術と伝統技術で推定復元されたものだそう。肉筆の力強さに圧倒されます。

左上は葛飾北斎「須佐之男命厄神退治之図」(推定復元図)所蔵:すみだ北斎美術館/制作:TOPPAN株式会社。北斎、数え86歳の時の作品

北斎の有名な錦絵の数々が並ぶ。左:「鬼児島弥太郎 西法院赤坊主」、右上:「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」、右下:「冨嶽三十六景 山下白雨」(すべて高精細レプリカ。すみだ北斎美術館蔵)
有名な「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」は、完成した作品としてだけでなく、版を彫り、色を摺るという錦絵ができるまでの工程も展示。北斎のブルーの鮮やかな色彩や波の生き生きとした表現が、こうして生まれたのだと思うと感動します。 また、タッチパネルモニターや、娘の阿栄(おえい)とともに、作画に没頭する北斎の様子を再現した「北斎のアトリエ」という模型などの展示もされています。

タッチパネル(左上)や現代の版木(下)なども展示されている
250年ほど前の江戸時代に作られた錦絵は、光や熱、水に弱く、変色しやすい顔料が使われている多色摺木版画。そのため、『北斎を学ぶ部屋』では実物大高精細レプリカを展示し、オリジナル作品は年間1カ月以内の展示にとどめ、劣化しないよう保存管理しているとのこと。でも、十分に作品の素晴らしさを感じられる展示内容で、企画展、特別展ではオリジナル作品を鑑賞することができます。

「常設展プラス」ではオリジナル作品も月替わりで展示

「常設展プラス」の全景
「常設展プラス」のスペースでは、北斎の肉筆画としては最長といわれる7m以上もある「隅田川両岸景色図巻」(複製画)と、世界に影響を与えた『北斎漫画』(複製)が展示されています。 「隅田川両岸景色図巻」(複製画)は、舟で吉原へ向かうコースとなっていた柳橋から山谷堀(さんやぼり)までの隅田川の両岸、日本堤、吉原遊郭などを描いた肉筆画。長らくフランスにありましたが、約100年ぶりに里帰りし、現在は「すみだ北斎美術館」が所蔵している作品です。 鑑賞しながら、今も残っているスポットを絵の中に見つけるのも楽しいですね。

明治時代の美術商・林忠正が所蔵し、長らくフランスにあった「隅田川両岸景色図巻」(複製画)すみだ北斎美術館蔵

『北斎漫画』(複製画)すみだ北斎美術館蔵。絵を学ぶ教科書のような役割も
鮮やかな表紙がずらりと並ぶ『北斎漫画』(複製画)の展示は、実際に手に取って本の中面を見ることも可能。江戸時代の人々もこうして手軽にパラパラとめくっていたかもしれません。 また、「今月の逸品」というコーナーでは、定期的に展示替えをしながら、オリジナル作品を1点紹介しています。「冨嶽三十六景」など、有名な錦絵が登場するので見逃せません。

「今月の逸品」の一例。葛飾北斎「冨嶽三十六景 従千住花街眺望ノ不二(せんじゅはなまちよりちょうぼうのふじ)」(オリジナル。すみだ北斎美術館蔵) ※作品は時期により異なります

北斎の魅力を深掘りする企画展、特別展も充実

左:葛飾北斎「仁和嘉狂言 三月 花すもう」すみだ北斎美術館蔵(後期)/右:葛飾北斎『画本東都遊』下 絵草紙店 すみだ北斎美術館蔵(通期) ※半期で同タイトルの作品に展示替えをします
「すみだ北斎美術館」では、企画展を年間3回ほど、特別展を1回ほど開催しています。例を挙げると、2025(令和7)年3月18日~5月25日は企画展「北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで」を開催。江戸時代の板元たちが北斎をどのようにプロデュースし、どのような作品を世に生み出したかをたどる展覧会です。

企画展「北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで」の内覧会の様子(撮影:市来恭子)
“江戸のメディア王”と評され、北斎の才能に早くから目をつけていた蔦屋重三郎をはじめ、「冨嶽三十六景」をヒットさせた西村屋与八、『北斎漫画』を出版した永楽屋東四郎といった江戸の板元たち、また、伝統木版として浮世絵制作を続ける現代の出版元が制作した、北斎からインスパイアされた現代アーティストの作品が紹介されています。 より深く北斎の魅力が楽しめる展覧会。会期にあわせて、訪れるのもいいですね。

ショップには関連書籍から日常使いできるアイテムまで

観覧料不要で利用できるミュージアムショップ(画像:すみだ北斎美術館)
ミュージアムショップには、所蔵品をモチーフにしたオリジナルグッズ、北斎をメインとしたアートデザイングッズや関連書籍、「メイドインすみだ」の商品など、さまざまなアイテムがラインアップ。定番のものがほとんどですが、展覧会にあわせて登場する図録やリーフレットなどもあるので要チェックです。

所蔵品をモチーフにしたオリジナルグッズ(撮影:尾鷲陽介)

企画展「北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで」で展示される作品のポストカード各187円
「すみだ北斎美術館」はJR・地下鉄の両国駅が最寄りで、錦糸町駅からも徒歩圏内。隅田川も近く、周辺には下町情緒を感じるスポットが点在しています。散策がてら、ゆっくりアート鑑賞を楽しんでみませんか。

すみだ北斎美術館
スミダホクサイビジュツカン
https://hokusai-museum.jp/
<観覧料>『北斎を学ぶ部屋』大人400円、『北斎を学ぶ部屋』&「常設展プラス」大人700円 ※企画展・特別展の観覧料は展覧会ごとに異なる(当日に限り、『北斎を学ぶ部屋』と「常設展プラス」も観覧可能)
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いちきドーナツ 市来恭子 撮影:依田佳子
Writer
いちきドーナツ 市来恭子

東京在住のフリー編集兼ライター。尾道観光大使・群馬県文化審議会委員。すてきな情報をお届け♪
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