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2025.10.13
灰と薔薇の「あいま」で考える新しい世界。国際芸術祭「あいち2025」レポート
2010年から3年ごとに開催されている国際芸術祭「あいち」は、今年で6回目。「あいち2025」には、国内外から60組以上のアーティストが参加。現代美術展には54組、パフォーミングアーツには9組の公演が登場します。会場は「愛知芸術文化センター」「愛知県陶磁美術館」「瀬戸市まちなか」の3会場で、それぞれ独自の魅力にあふれる表現に出会えます。 今回のテーマは、詩人アドニスの詩の一節からとられた「灰と薔薇のあいまに」。戦争や環境破壊といった厳しい現実を「灰」とすれば、その先に芽生える希望や未来は「薔薇」ともいえます。灰と薔薇のあいまにある揺らぎや可能性に目を向けることで、私たちの世界を新しい角度から見つめ直そうというメッセージが込められています。 ここからは、会場ごとの「みどころ」をレポートします。
自然に調和する空間で、建築もアートも満喫できる「愛知県陶磁美術館」
“せともの”の街でたのしむ「瀬戸市のまちなか」アート散歩
多彩な表現が交差する、あいち2025の中心地「愛知芸術文化センター」
自然に調和する空間で、建築もアートも満喫できる「愛知県陶磁美術館」

日本を代表する窯業地・愛知県瀬戸市にある「愛知県陶磁美術館」は、やきもの専門のミュージアム。2025年4月に1年9か月の修繕工事を経て本館がリニューアルオープン。敷地内には「デザインあいち(旧南館)」や陶芸体験施設「つくるとこ陶芸館」、古窯跡を公開する「窯の記憶I・II」などが点在しています。

この建物の設計は昭和モダニズム建築の巨匠・谷口吉郎氏によるもので、エントランスに入ると高い天井に吊るされたホテルオークラゆかりの「オークラ・ランタン」が館内をやわらかく照らします。照明はすべてLEDに刷新され、建築当時の趣を残しながら快適な空間に生まれ変わりました。 池の中に並ぶ、杉浦康益氏の《陶による岩の群》 は、大きさや形、表面の凸凹まで全て同じなのだそう。観る角度で個性豊かに感じるのも不思議。アート好きだけではなく、建築好きにもたまらない空間になっていることにも注目です。

《レリーフⅢ》 エレナ・ダミアーニ Elena Damiani
エントランスでは、ペルーを拠点とするアーティストエレナ・ダミアーニの長大な時間の変化、地球や物質の変動、地質学的な時間軸を視覚化した《レリーフⅢ》を展示。 《レリーフ》シリーズの一環であるこの作品には、瀬戸の窯業と関わりが深い珪目(がいろめ)粘土や珪砂(けいしゃ)、酸化鉄を含んだ黄土といった地元の原料が使われています。

《眠れるヘビ》 ワンゲシ・ムトゥ Wangechi Mutu
また、ケニアとアメリカを拠点に活動するワンゲシ・ムトゥ氏は、彫刻や絵画、インスタレーションなど多様な手法を通して、私たちが自らに抱くイメージや他者への認識を問い直す作品を生み出しています。《眠れるヘビ》では、形象の比喩的表現を通して、私たちの価値観に静かに問いかけてきます。 このように、国内外から集まった多様なバックグラウンドを持つアーティストたちの作品が、次々と続いていきます。開催地である瀬戸の伝統的な技術や地域資源、そして日々の暮らしと密接に結びついた文化が作品に息づき、その魅力を生み出しています。

《シーシュポスの柘榴》西條茜 Saijo Akane

《無題(ジューン・ジョーダンにちなんで)》シモーヌ・リー Simone Leigh

《無題》シモーヌ・リー Simone Leigh

『ゆっくり話して、そうすれば歌になるよ』クォン・ビョンジュン Kwon Byungjun
『ゆっくり話して、そうすれば歌になるよ』は、シンガーソングライターであり映画や舞台音楽でも活躍し、現在は現代美術家として活動するクォン・ビョンジュン氏による世界初演のサウンド・インスタレーション。 ヘッドフォンを装着し、芝生広場を歩きながら振り向いたり、かがんだり……頭の向きを変えることで音の聞こえ方が変わります。瀬戸の土や水、火、植生、街や人々の音で作られた仮想世界が、現実の風や陽射しなどの自然風景と重なり立体的な音の世界を体感できます。 開催日や詳細は公式ページをチェックしてみてくださいね。なお、10月25日(土)・26日(日)には、見えない・見えづらい方向けの移動サポートも用意されています。

『ゆっくり話して、そうすれば歌になるよ』クォン・ビョンジュン Kwon Byungjun

左上:芝生広場、右上:《コペ(リクガメ)》ワンゲシ・ムトゥ Wangechi Mutu 、左下:《ニョカ(ヘビ)》ワンゲシ・ムトゥ Wangechi Mutu 、右下:《瀬戸の版築プロジェクト「凹」》ハイブ・アース Hive Earth
芝生広場や散策路など屋外空間も開放的。1日かけて美術館をまるごと楽しめます。緑豊かな丘陵地にたたずむ環境もまた、この美術館ならではの魅力です。

加藤泉 Kato Izumi 作品群
丘を登ったところにある「デザインあいち」では、加藤泉氏の作品も展示されています。無機質な空間に並ぶ作品群は、とても見応えがあります。

五十嵐大介 Igarashi Daisuke のキービジュアルが描かれた壁
愛知県陶磁美術館の外壁タイルには、五十嵐大介氏 のキービジュアルも。鑑賞記念に、ここでの写真撮影もおすすめです。
愛知県陶磁美術館
あいちけんとうじびじゅつかん
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モリサワ ジュンコ
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