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2014.09.12
淡路島・コモード56商店街に吹く、あたらしい風
連載コラム【暮らしと、旅と...】第一回目にご紹介したいのは、淡路島。私ことトラベルライター朝比奈千鶴が、ここ数年、何度も足を運んでいるお気に入りの土地です。 関西では週末に気軽に足をのばせる場所として知られているかもしれませんが、交通の便を考えると、関東ではなじみの薄い場所といえると思います。最近、SNSなどで情報をキャッチした友人から、「今度、旅先に淡路島を考えているのだけど、どこに行ったらいいのかしら?」と聞かれることが増えてきました。 ううむ、国生みの島だから超パワースポットな磐座(いわくら)があるし、点在するカフェや宿のセンスがステキだし、生産者やクラフト作家さんとの出会いも楽しめるだろうし...とまあ、さまざまな観点からの入り口がありすぎて、ひとことでは今、現在自分が感じている淡路島について伝えられません。 ということで、今回、読者のみなさんを私の友人と思って、私の感じている淡路島を、みなさんが実際に訪れることのできるお店やイベント、買うことのできるモノを通してお伝えしていこうと思います。
淡路島きっての繁華街、洲本市のコモード56商店街に「233」があります。 コモード56商店街は夏の終わりに玉ねぎ全国早食い大会が開催されることで知られているアーケード商店街で、なぜか店内のワゴンに犬が2匹寝ている本屋さんや、レトロな雰囲気ながら最新のアイウエアを扱うあなどれないメガネ屋さんなどがあり、歩いていると昭和と平成が行ったり来たりするのを感じられます。 233は、そんな商店街の端、地番233にあり、ひときわおしゃれなオーラを漂わせています。それもそのはず、淡路島の古民家を現代風に再生し、移住者の支援をする「リコミンカ」の活動をしている一級建築士事務所ヒラマツグミの代表、平松克啓さんが設計して作ったものだから。 商店街の空き店舗対策で改装を依頼された平松さんがひょんなことから一棟丸ごと借りることになり、シェアオフィスにすることにしました。そこで始まったのが233です。
私が訪れたときは、ちょうど1Fのギャラリーで「陶家の人々」(※2014年9月24日終了)という淡路島でアトリエを持つ作家さんたちの展覧会が開催されていました。 仕切り壁のない気持ちのよい1Fの空間は、ギャラリーとカフェがあり、次々とお客さんがやってきます。ある人はひとりでギャラリーを見にふらりと、ある人は子どもやおじいちゃんを連れて家族でランチ、ある人は友達とお茶。ふんだんに古材が使われているからでしょうか、ビルの中なのにとてもやわらかな空気が流れています。 カフェスペースでは、午前中に233でワークショップを行っていた高知で在来種の野菜や穀物の種を守る活動をしているジョン・ムーアさんを囲んで地元の若手農家さんたちと熱いやりとりがなされていました。島へ移住した夫婦が営むいちご園のジャムや淡路でとれた古代米など選りすぐりの島の産品がカフェスペースの棚に並べられており、気になったものをあれこれ手に取って眺めているうちに、もしや熱いやりとりを交わしている人たちの中にこのジャムを作った人がいるのかなと想像したりして。 作品と作品の間にほどよい空間が保たれたギャラリーの作品群は、どれもすっきりと洗練されていて暮らしに持ち帰りたくなるものばかり。私は、「島のふく」と名付けられた麻の洋服が気になりました。
「233では、モノを売ることよりも、つながりや関係性を持ってもらうことを重要視しているんです」という平松さんは、建築家という職業柄かわかりませんが、人が働く、何かにつながりを持つ、コミュニケーションをするなど、“環境づくり”について興味があるそうです。233は以前から考えてきたことを実践するのにとてもよい空間になったとほくほく顔で話してくれました。 「コルビジェなど現代建築の流れを意識してかっこいい大きな建築物を、と思っていたこともありましたが、淡路島で仕事をしていくうちにそれはここでは求められていないとわかり、現実を見て地域と関わりながらできることを考えて古民家再生などをしてきました。233で起こることは、個人的に楽しく、関わる人たちが満足できるレベルになれればいいのかなと思っています。小さな世界のほうが持続可能な気がしています」という平松さん、設計に向かっているだけでは見えてくる世界が狭くなるような気がして色々模索をしている中で、商店街活性化の相談をされたのがよいきっかけで233を始めるに至ったそうです。
カフェのランチは週代わりで1000円。 シェフも変わればメニューの趣向性も変わり、ある日はマクロビオティックだったり、エスニックだったり、シェフがその日手に入った材料で自分の得意とするもの、作りたいものを提供します。ちなみに、私が食べたのは、地元産野菜の生春巻きプレートとじゃがいものスープ。「陶家の人々」開催中は、食後のコーヒーは作家さんの作ったカップから選んで使えることになっていました。 「いろんなところに住んでみましたが、淡路島は住み心地がいいですね」というのは神奈川県の藤野町から移住したシェフのかまちゃん。スタッフの面々は女性が多く、ほとんどが移住者だといいます。店長のヂョンミさんも地元出身スタッフのあやちゃんも世界中を旅して見聞を深め、その後に縁あって淡路島にたどりついて「233」で働いています。 ともすれば日本の社会ではみだしてしまいそうな、独自の考えを持ち、行動していく元気な女性たちの集う環境も、オーナーの平松さん本人の思いとはきっと別に自然に出来上がっているように見えました。
「店の前が空き店舗だったときに比べるとずいぶん明るくなりましたよ。たまに、店の前で野菜を売っていたり、若い人たちが集まって、活気づいてきましたね」というのは233前にある靴屋のご主人。 年齢やどこから来たなどということは関係がなく、誰でも地域の空気を感じることができる空気の穏やかさ。プロの建築家が演出した空間をベースに人やモノ、空気が動き出す。そこをきっかけに淡路島をめぐると、ゆるりとした旅でもこの島にしかない「何か」を感じ取ることができそうです。 「その人がよいと思うことを自由にやれる場所であればいい」そんな思いをベースとして、「233」はパブリックスペースとして機能していっているように見えました。旅人がドライブがてら、ふとコーヒーを飲んでカウンターに座っているだけでもきっと淡路島の素顔の一片に触れられる、そんな気がします。 さて、次回は「233」で見つけて気に入った「島のふく」を作る「CHAR*」にお邪魔します。よいモノに出合えますように。
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233
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朝比奈千鶴
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