理想は高く、敷居は低く。津軽の「これまで」と「これから」を線で結んで「今」を表現するセレクトショップ。[グリーン/青森県弘前市]by ONESTORY
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理想は高く、敷居は低く。津軽の「これまで」と「これから」を線で結んで「今」を表現するセレクトショップ。[グリーン/青森県弘前市]by ONESTORY

日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から青森県弘前市の「グリーン」を紹介します。

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温かい気持ちになれるアイテムを求め、次々と訪れるファンたち。

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長身でカッコ良い『green』の主人・小林久芳氏。「天然繊維」「国内生産」の2点を条件にして仕入れるウエアを自ら着用している。

午前10時30分。秋晴れの柔らかい光が射し込む店内に、早くもお客さんの姿が見受けられます。 「わー、この生地、フワフワで気持ち良いわ。触ってみて」 「本当だね」 開店直後に訪れた、この上品な壮年夫婦が手にしていたのは、オーガニックコットンのタオル。セレクトショップ『green』のある朝の情景です。 扱うアイテムは、テーブルウエアなどの日用品から化粧品、玩具、レディスのファッションアイテムまで多種多様。すべて「人と地球に優しい」をテーマにしています。こうした品々を集める主人が小林久芳氏。 「いらっしゃいませ」 今度は、若い女性がひとりで訪れました。穏やかな笑顔で小林氏が応対します。 「柄違いもお出しできますので、良かったらおっしゃって下さいね」

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白を基調とした『green』の店内。スペースの半分ほどをファッションアイテムが占め、残りのスペースには雑貨などを見やすくディスプレイ。一角には食料品や文房具も。

店はJR弘前駅から歩いて10分ほどの立地。隣接して以前、『ONESTORY』でも紹介した竹森 幹氏の『bambooforest』があり、その数10メートル先には姉妹店『green furniture』もあって、そちらでは、独自にリペアしたアンティークの家具や器を揃えています。 「弘前市って粗大ゴミは月2回、無料で回収してくれるんですけど、自転車でお店に通勤する途中、出されていたゴミを見かけて『それ、捨てちゃうの? もったいない』と思ったのがきっかけでした」。6年前、『green furniture』を開いた経緯を振り返ります。そして、10年前に遡る本家『green』の誕生にも、こうした小林氏の温かい視点がありました。

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暖色系の光が灯る『green furniture』。脱穀機の歯車を転用した壁掛け時計など、小林氏のアイデアが活きたアイテムも。「想像した通りの仕上がりになったときが一番楽しい」

「bambooforest」の記事はこちら

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夢を追い続けた結果、スノボのプロから、ショップのプロに。

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『green』は「元々、町の眼医者さんだったよう」と小林氏が言う洋館風の洒落た一軒家の1階にある。この2階が『オトハネ』。こちらのオープンは2001年のことだった。

「実は、プロのスノーボーダーを目指していたんです」 驚きの過去を話し始めた小林氏。五所川原出身で、「実家が洋品店だった」から、今があると思っていたら、違いました。18歳で旅行添乗員を目指して上京。専門学校に通いましたが、卒業後は縁あって、横浜のホテルに就職します。そこで仕事仲間に誘われ、サーフィンと出合いました。スノーボードは、言ってしまえば、雪上のサーフィン。小林氏がスノーボードに目覚めるのは、きっと自然な流れだったのでしょう。 「ホテルを辞めてからは、プロを目指して世界各地を転戦していました」 日本の夏は南半球に、冬になれば北半球へ。そんな生活を3年ほど、続けたと言います。けれど、ずっと「24歳でプロになれなかったら諦めよう」と思っていたそう。青森に戻ってまず在籍したのは弘前にあるスノーボードウエアのショップでした。独立して自ら立ち上げたショップ『オトハネ』もメンズウエアの専門店。 「ですから、当初は今のように、女性服を扱うようになるとは夢にも思っていませんでした(笑)」

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『オトハネ』は今も基本的にはメンズウエア専門店。インドのサリーで使われていた生地をリユースしたジャケットなど、「環境に優しい」アイテムを全国から集めている。

転機が訪れたのは、店を始めて8年ほどが過ぎた2009年。この頃、スノボ関係者の間では「このまま地球温暖化が進むと、いずれスノーボードができなくなるのでは?」という危機感が広まっていて、「地球環境に負荷をかけないライフスタイル」を実践するボーダーも増えていました。かつて、ともに切磋琢磨した仲間たちの意識変革は小林氏にとって、とても刺激的に映ったに違いありません。さらに、小林氏は当時、長女の出産を控えた時期でもありました。次世代のための地球。大袈裟かもしれませんが、そんな感情も沸き起こったことでしょう。

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『オトハネ』にて。ペンダントライトやテーブルなど、店舗を飾る什器にも小林氏の卓越したセンスが光る。

「ならば、いっそのこと、レディスで新しいお店を作っちゃおう」 そうして誕生したのが『green』でした。サスティナビリティなライフスタイルの提案にはファッション以外も必要と、雑貨や生活用品にまで、扱うアイテムの幅を広げ、今に到っています。 「けど……実は、アパレル業界で慣例の春と秋のセールを止めたくて、始めたっていう面もあるんですよ。良いと思って仕入れた洋服を、何で安く売らなきゃいけないのかって、ずっと思っていた。いきなりセールを止める勇気がなかったから、セールが最初からない、新しいお店を作っちゃった(笑)」 小林氏が少し照れたように付け加えました。

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伝統を広めるだけでなく、実用性も見据えて展開したヒット作。

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「こぎん刺し」シリーズの一部。深緑色、山吹色など、どのカラーリングも素敵。アイテムはほかに、印鑑入れやポケットティッシュケースも。全部で十数種を展開する。

『green』の大ヒットアイテムのひとつに、「こぎん刺し」シリーズがあります。こぎん刺しとは津軽独特の刺し子技法。歴史は古く、江戸時代より続くとされています。元々は着物のほころびを直すために農家の間で育まれた技術で、藍で染めた麻の布地に、白い木綿糸で刺繍するのが伝統的なスタイル。目の粗い麻に縫い付けるから保温効果もあり、寒い津軽で広く親しまれてきました。 「津軽の人にとって、おばあちゃんのタンスを開けると何かしら必ず入っている、馴染み深いものです」 しかし、馴染みが深い分、古臭いものになっていたのもまた事実でした。そんなこぎん刺しを「地元の若い人にも使って欲しい」。そう思って、小林氏が取り組んだオリジナルこそ、こぎん刺しシリーズ。きっかけは、『弘前こぎん刺し研究所』に所属する刺し子さんが『green』の常連だったからでした。『弘前こぎん刺し研究所』とは、昭和初期から伝統工芸の存続を社会的使命と捉え、今も製品作りを通して魅力を伝える地元の企業です。

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店内に設けられた、こぎん刺しコーナー。全国からファンが買いに訪れる。「こぎん」とは津軽で言う「野良着」のこと。元々は農作業で着た麻の服に施されていた。

「試しに、その方にご相談したら、快く引き受けて下さいました」 最初は個人的な別注という形でスタート。今では、多くのアイテムが揃う『green』と『弘前こぎん刺し研究所』のコラボ作品として定着し、全国に多くのファンがいます。麻の布に木綿糸という仕様、ずっと描かれてきた定番の図柄という、2点の伝統をリスペクトした上で、名刺入れやがま口のほか、ブックカバー、ミニトートまで展開。ラインアップは拡大しています。 「この色、素敵ね」 「オレはこっちかな」 冒頭で紹介した夫婦も、この日、試しに身に付けたりしながらブローチを購入していました。 カラーリングも豊富になり、藍染色以外にも、漆黒色や山吹色、桜と銀鼠色など、現状で全8色を展開しています。色が変わっただけで、こぎん刺しの図柄ひとつひとつがモダンに浮かび上がってくるから不思議。一・三・五・七と奇数目で刺して規則性を生み、美しい幾何学模様を描く独自性も際立ちます。 「しかし」と小林氏。「刺し子さんは好きでなくてはできない仕事なんです」と続けました。こぎん刺しはすべて手刺し。例えば、ブックカバーで総柄にすると、キャリア10年の熟練でも丸2日はかかる。それでも、商品は5000円ぐらいの値付けにしないとなかなか売れません。『弘前こぎん刺し研究所』には現在、70人ほどの縫い子さんがいますが、後継者の問題もあるでしょう。古き佳き伝統を、現代的なセンスで世に広める。言葉にすると簡単ですが、現実にはいろいろとクリアしなければならない課題も多いのです。 「それでも、今は数を売っていきたい。続けることで顧客の裾野をもっともっと広げ、少しでもこぎん刺しの存続に貢献していきたい」決意表明のようにきっぱりと、小林氏は語るのでした。

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埋もれた逸材を心から欲しいと思えるモノに仕立て、津軽から発信。

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阿保正文工人とコラボした「季節のこけし」シリーズ。「造詣は深くありませんでしたが、こんなのがあったらかわいいなと思うものをデザインして頂きました」。残念ながら販売は一年で終了。

「これは、黒石の温湯温泉(ぬるゆおんせん)で伝統こけしを作る工人・阿保正文さんとコラボした作品です」 小林氏が指し示す棚には、手のひらサイズで配色もかわいい、こけしが横一列に並んでいました。12月ならサンタクロースと、月毎にテーマを替えて一年間だけ、作られたシリーズです。小林氏は今、津軽に残る様々な伝統工芸の掘り起こしにも積極的に取り組んでいます。「作る人、販売する人を訪ねてお声がけはいろいろしていますが、形にならなかったものもたくさんある(笑)」 それでもアプローチを続ける理由は、こうした活動が『green』の掲げるサスティナビリティの思想と連なっているからでしょう。伝統工芸を、これからもずっと愛される、生活に根付いた日用品へと昇華するため──。

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2階の作業スペースで「今日はお客様のコートのお直し」。自己流と謙遜するが、和装の直線裁ちで自ら洋服を作ることも。「生地全面をすべて使う知恵が素晴らしいと共感した」。

「こぎん刺しは今、本当に人気で、聖地ツアーということで、全国から多くの方がいらっしゃいますが、『弘前こぎん刺し研究所』と『佐藤陽子こぎん展示館』くらいしか、弘前には触れられる場所がないんです。私自身、まだ何ができるかわかりませんが、裾野を広げるだけでなく、いかにして厚みを出していけるか。それが今後の使命だと思っています」 午後7時。辺りはすっかり日も暮れて、『green』も閉店の時間を迎えました。取材の帰りに『green furniture』の前を通ると、暖色系の灯りの中、リペアされて甦った家具たちが美しく輝いて見えました。 「とにかく、日常生活の中で使って欲しいですから、家具の値段はできる限り、安く抑えています」。小林氏の説明が脳裏に甦ります。 環境に優しいライフスタイルと、持続可能な伝統工芸の未来を見据えて。信念は崇高ですが、その理想を、頭でっかちな説諭で押し付けるのではなく、誰もが欲しいと思うモノに翻訳して、心に訴える。この姿勢があるから『green』は人気ショップなのだと実感しました。

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閉店間際の『green furniture』。暖色系の灯りの中、リペアされた家具がのぞく。

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青森県 弘前市代官町22

clock-icon10:30〜19:00
pin-icon水曜
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